浸水・洪水・氾濫現場は、
地震・火災とは全く異なる危険を持つ“特殊災害”。
● 水深の急上昇
● 流速の増加
● 感電リスク
● 危険物の流出
● 橋・道路の崩壊
● 夜間視界ゼロ
こうした複合要因の中で、
緊急消防援助隊(緊援隊)は全国から集結し救助を行う。
ここでは元消防職員として、
“水害現場での救助の核心とプロが絶対にやらないこと”
をわかりやすく解説する。
■① 水害の最大の敵は“流速”。30cmの水で人は歩けない
水害現場で最も危険なのは 水の速さ(流速)。
● 流速1m/sで足をすくわれる
● 水深30〜50cmで歩行不能
● 車は50cmで動かなくなる
● 家屋の扉は水圧で開かない
そのため緊援隊は、
“水深と流速の計測”から活動を開始する。
● 救助隊の立ち位置
● ボートの進入方向
● 住民の救出優先順位
● 活動エリアの境界
これらすべてが“流速基準”で決まる。
■② ボート救助の基本は“逆流進入”。上流から下流へ向かう
水害救助では ボートの進入方向 が命を左右する。
● 下流から入る → 流されやすい
● 横から入る → ボート転覆リスク
● 上流から入る → 最も安定して接近できる
緊援隊は必ず、
「上流 → 下流」へ向かうルートで住民に近づく。
また、ボートは
● エンジン艇
● つばさボート
● FRP
● ゴムボート(IRB)
など、現場に応じて使い分ける。
■③ 水害現場は“感電”が最も見落とされる死因
浸水地域に多いのが、
電柱・配電設備・家屋の漏電による感電死。
緊援隊は必ず、
● 電力会社に停電要請
● 電線のたわみ・切断確認
● 水中の電流をテスターで確認
● 金属部分に触れない
● 機器は絶縁手袋で使用
水中の金属フェンスや側溝は“帯電している”ことがあるため、
最も危険なポイントの一つ。
■④ 濁流の中には“流木・ガレキ・給油タンク”が潜んでいる
水害救助で怖いのは“見えない衝突物”。
● 流木
● 家具
● 家屋の破片
● プロパンボンベ
● 車両
● 給油タンク
これらがボートの下から突然当たることがある。
そのため緊援隊は、
● 水面の動きを見る
● ボート速度を一定に
● 竿などで前方を探る
● 夜間はライト2方向照射
“衝突予測”がもっとも重要な技術。
■⑤ 家屋救助は“窓・ベランダ・屋根”の順にアプローチ
浸水家屋に取り残された住民の救助では、
❌ 玄関から入る → 水圧で開かない
❌ 扉をこじ開ける → 急激流入で溺れる危険大
正しいのは、
● まず窓を確認
● 次にベランダ
● 屋根上退避者は最優先
● 2階へ退避させてから救助
特に、
屋根に避難できた人は“助かる確率が高い”。
逆に、水が腰まで来ている1階は極めて危険。
■⑥ 要救助者の搬送は“低体温症”との戦い
水害の救助後は、多くの人が低体温に陥る。
● 濡れた衣服
● 長時間の浸水
● 風による冷却
● 夜間の冷え込み
そのため搬送時は、
● 毛布で包む
● アルミシート
● 救急車に引き継ぎ
● 医療班が体温をチェック
水害は“救助後のケアの質”で生存率が大きく変わる。
■⑦ 夜間水害は“最も危険”。ライト・発電機・通信が命綱
水害の夜間活動は視界がほぼゼロ。
● 水面が見えない
● 流木が見えない
● 電柱・看板が突然現れる
● 風で声が届かない
緊援隊は次を必ず準備する。
● 高輝度 LEDライト
● 発電機
● 指揮本部の照明塔
● 複数系統の無線
● ヘルメットライト
● ドローン照明(地域により運用)
“通信と照明”は夜の水害の生命線。
■⑧ 避難所支援部隊は“浸水住民の生活再建”を支える
緊援隊は救助だけでなく、
避難所の立ち上げ支援も行う。
● 物資搬入
● 発電機設置
● 給水支援
● 衛生環境整備
● 生活相談
● 入浴・トイレ支援
水害後は“水とトイレ”の確保が最優先となる。
■まとめ|水害現場は“見えない危険”との戦い。判断力が命を守る
この記事のポイント。
● 流速30cm〜50cmで歩行不能
● ボートは上流から接近する
● 感電が最も見落とされるリスク
● 水中に流木・車・ガスボンベが潜む
● 家屋救助は窓→ベランダ→屋根の順
● 低体温症ケアが生存率を左右
● 夜間水害は通信・照明が命綱
元消防職員として断言します。 浸水・水害は“地形・流速・電気”を読む力が問われる高度な災害です。 緊急消防援助隊の連携と判断が、確実に住民の命をつなぎます。

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