大規模火災・延焼火災・同時多発火災が発生すると、
地元消防本部だけでは 人員・車両・水利・装備 が圧倒的に不足する。
そのため出動するのが――
緊急消防援助隊(広域応援)。
ここでは元消防職員として、
“広域火災で緊急消防援助隊がどう活動し、
どんな指揮・技術・連携で延焼を食い止めるのか”
をわかりやすく解説する。
■① 広域火災は“火点が複数・延焼速度が早い”のが特徴
都市部や密集地域で起きる火災は、
● 木造密集
● 強風
● 接道が狭い
● 車が入れない
● 建物同士が近い
● 高齢者住宅が多い
これらが重なると、
1つの火事が数十棟へ一気に燃え広がる。
地元消防では対応しきれないため、
緊援隊が全国から集結する。
■② 最初に行われるのは“火点区分”と“火勢判定”
緊援隊が火災現場へ到着すると、
最初に行うのが 火点の区分作業。
● 主火点(中心)
● 副火点(延焼先)
● 飛び火地点
● 危険建物(ボンベ・店舗・工場)
これを現地指揮本部で即時に整理し、
以下のように隊を振り分ける。
● 消防救助隊:人命救助
● 消防ポンプ隊:火勢抑え・水利確保
● 指揮支援隊:情報整理・本部運営
● 航空隊:上空偵察
● 後方支援隊:燃料・物資供給
“火点区分の正確さ”が延焼を止める鍵。
■③ 水利の確保は最優先。“消火栓・防火水槽・河川”を総動員
広域火災では、
水不足 が最初の大問題。
緊援隊は到着後すぐ、
● 周辺の消火栓
● 防火水槽
● 河川・池
● 工場の貯水槽
● 消防車リレー送水
これらを組み合わせ、水源を構築する。
特に“リレー送水”は広域火災の生命線。
● 1台目が水を吸う
● 2台目が中継
● 3台目が放水位置へ供給
※ 数百メートル〜1km以上の送水も可能。
■④ 放水は“火勢抑え”と“延焼防御”で分ける
緊援隊の火災戦術は、
地元消防と異なり “2系統同時運用” が基本。
▼① 火勢抑え(火点を直接叩く)
● 建物内部への放水
● 屋根の貫通放水
● 窓・開口部からの放水
● 泡消火剤の使用
▼② 延焼防御(燃えていない建物を守る)
● 水幕を張る
● 建物外壁を濡らす
● 熱が強い面を冷却
● 飛び火の消火
延焼を止められるかどうかは
“防御ライン”の構築が全て。
■⑤ 飛び火対策は“屋根・裏路地・車庫”が最重要
大規模火災で最も怖いのが 飛び火。
特に危険なのは、
● 屋根の上
● ベランダ
● 車庫
● 裏路地
● ゴミ置き場
● 物置
緊援隊はドローンや航空隊からの映像を元に、
“火の粉の飛散方向”を読み取り、
防御隊を先回りで配置する。
■⑥ 人命救助は“火点の外側から内側へ”が基本
広域火災の救助では、
無理矢理火点に突っ込むことはしない。
優先順位は次の通り。
① 逃げ遅れの通報がある建物
② 高齢者・障がい者・子どもが住む家
③ 煙が充満しているエリア
④ 火点に近い家(延焼間際)
救助隊は、
● 窓割り
● ベランダ経由
● 階段・屋上
● 隣家の屋根伝い
など、状況に応じて柔軟に進入する。
■⑦ 現場指揮本部は“情報の渋滞”を解消する役割
広域火災は情報量が膨大。
● 住民避難情報
● 火点位置
● 風向き
● 水利状況
● 各隊の位置
● 建物構造
● 医療機関の搬送体制
これらを地元消防と共有するため、
緊援隊の指揮支援隊が本部を運営する。
● ホワイトボード
● マップ
● ドローン映像
● 無線のトラフィック制御
● 消防・警察・自治体の連携
“情報の交通整理”が延焼拡大を防ぐ。
■⑧ 夜間火災では照明・熱・煙の3要因が活動を妨げる
広域火災の夜間は、
以下が重なる最悪の条件。
● 煙が見えにくい
● 飛び火を視認しにくい
● 熱気で近づけない
● 建物の倒壊危険
緊援隊は、
● 照明車を展開
● 航空隊ライト照射
● 風向きを常時チェック
● 倒壊危険エリアを設定
“夜の見える化”が重要になる。
■まとめ|広域火災は“全国の力”で止める災害。連携力こそ最大の戦術
この記事のポイント。
● 広域火災は“複数火点+延焼速度UP”
● 最初に火点区分をし、隊を配置
● 水利確保とリレー送水が最重要
● 防御ラインの構築が延焼を止める
● 飛び火対策は屋根・車庫・裏路地
● 救助は外側→内側が基本
● 情報の渋滞を指揮支援隊が解消
● 夜間火災は照明・風・煙との戦い
元消防職員として断言します。 広域火災は“1本のホース”では絶対に止まりません。 緊急消防援助隊と地元消防の総力戦こそ、 延焼を止め、住民の命を守る唯一の方法です。

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