緊急消防援助隊(緊援隊)は、大規模火災、倒壊建物、水害、行方不明者捜索など、
精神的負担が非常に大きい災害現場で活動します。
強烈な光景、長時間活動、住民の不安、緊張状態の継続──
こうしたストレスは、隊員のパフォーマンスだけでなく“心の健康”にも深刻な影響を与えます。
ここでは元消防職員として、
緊援隊が現場で実践している心理的ストレス対策をわかりやすく解説します。
■① 心理的ストレスは“見えない災害”
体の疲労は気づきやすいですが、心の疲労は見えにくいのが特徴です。
- 不安
- 緊張
- 恐怖
- 無力感
- 過度な責任感
- 判断疲れ
これらが積み重なると、「正常な判断」ができなくなります。
緊援隊では 心の安全管理も作戦の一部 と考えています。
■② 班長による“事前声かけ”が心理安定の土台
現場へ向かう前、班長(指揮者)は隊員へ必ず声をかけます。
- 今日の活動内容
- 想定される負荷
- 心身の調子の確認
- 不安がある隊員の把握
これにより、隊員は心理的負担を小さくして出動できます。
災害現場では 「安心感のある指揮」が心の支えになる のです。
■③ 活動前の“心理準備”がストレスを軽減
緊援隊は活動前に、軽いイメージトレーニングを行います。
- どんな場面でも落ち着いて行動する
- 役割を明確にする
- 仲間と連携する姿をイメージ
- 危険を想定して心の準備をする
こうすることで、突然の変化に対するストレス反応を和らげます。
■④ 危険場面の“情報共有”が不安を減らす
不安の正体は「わからないこと」です。
そのため緊援隊は以下を徹底します。
- 火勢・煙・倒壊の状況
- 二次災害の危険性
- 住民情報
- 現場の難易度
- 天候や水位の変化
情報がクリアになるほど、心は落ち着き、
心理ストレスが大幅に軽減されます。
■⑤ 活動中の“仲間同士の声かけ”が効果絶大
現場では、隊員同士の声かけが最も大切です。
- 「大丈夫か?」
- 「もうすぐ交代だ」
- 「無理するなよ」
- 「一緒に確認しよう」
こうした短い言葉でも、
隊員の心を支える強力なメンタルケアになります。
元消防職員として、
声をかけ合う現場ほど安全で強い という実感があります。
■⑥ 休憩時の“メンタルリセット”が疲労を防ぐ
緊援隊は休憩を単なる休息ではなく、
心をリセットする時間 として扱います。
- 雑談
- 深呼吸
- 水分・食事
- 防火衣を脱いで楽な姿勢をとる
- 冗談で空気を軽くする
特に雑談は、緊張状態から心を解放する強い効果があります。
■⑦ 活動後の振り返り(デブリーフィング)で心を整理する
活動が終わったら、必ず簡単な振り返りを行います。
- 良かった点
- 改善点
- 各隊員のメンタル状態の確認
- 気になった場面の共有
心理的に負担を感じた隊員はこの場で話すことができ、
心の傷を“その日のうちに軽くする”ことができます。
■⑧ 必要に応じて専門家・上司へ早期相談
心理負担が大きい場合、隊員は無理をせず報告します。
- 不眠
- 食欲低下
- 無気力
- 悪夢
- 気分の落ち込み
緊援隊では
「相談することは弱さではなく、隊を守る強さ」
という文化があります。
■まとめ|心のケアは“活動継続の生命線”
緊急消防援助隊の活動は、身体よりも心が先に限界を迎えることがあります。
- 指揮者の声かけ
- 情報共有
- チームの支え
- 休憩でのリセット
- 活動後の整理
- 早期相談
これらの積み重ねによって、
隊員は極限環境でも冷静さを維持し、住民を守る活動が可能になります。
結論:
心理的ストレス対策は、緊急消防援助隊の“心の安全装備”。 元消防職員として、メンタルケアは現場力を左右する最重要要素だと断言します。

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