九州北部豪雨(平成29年・令和2年など複数発災)は、
短時間の猛烈な豪雨によって土砂災害・河川氾濫・家屋流失が同時多発した、
日本でも屈指の 複合水害・土砂災害 です。
緊急消防援助隊(緊援隊)は、福岡・大分を中心に多数の部隊が派遣され、
濁流救助・孤立地域救援・行方不明者捜索・避難所支援など多岐にわたる活動を展開しました。
ここでは元消防職員として、九州北部豪雨で実際に行われた活動事例を整理して解説します。
■① 流木・土砂に埋まった地域への進入困難な救助活動
豪雨直後、朝倉市・東峰村などでは、
流木・土砂・家屋倒壊が道路を完全に塞ぎ、車両での進入が不可能でした。
緊援隊が行った活動は、
- 流木で塞がれた道路を徒歩で進入
- 土砂に埋まった家屋の捜索
- 流されかけた家への接近救助
- 住民の一時避難支援
視界の悪さ・地盤の不安定さ・二次災害の危険が高く、
極めて慎重なアプローチが求められました。
■② 濁流・増水した河川での水害救助
九州北部豪雨の特徴は「濁流による孤立」が多発したことです。
緊援隊は、
- ボートによる孤立地区救助
- 鉄橋・道路上に取り残された住民の救助
- 流されかけた車からの救出
- 訓練以上の激流に対応したボート操船
特に水深の急変と流速が早く、
ボート救助=命がけの作業 でした。
■③ ヘリコプターと連携した空からのアクセス
陸路がすべて寸断された地域では、
消防ヘリ・警察ヘリ・自衛隊ヘリとの連携が不可欠でした。
- 孤立集落へのホイスト救助
- 急患搬送
- 上空からの被害把握
- 捜索エリアの指定
空からの情報は、濁流で地形が変わった地域の捜索計画に大きく貢献しました。
■④ 行方不明者の捜索活動(流木・瓦礫地帯)
豪雨災害では流木・瓦礫・土砂に人が巻き込まれるケースが多く、
捜索は非常に危険で、時間も長期化しました。
緊援隊は、
- 鉄製バール・チェーンソーで流木を除去
- 足元が不安定な斜面での捜索
- 土砂崩落斜面の安全確認
- 行方不明者の広範囲捜索
二次災害のリスクが高い中、慎重に作業を続けました。
■⑤ 住民の避難支援と避難所の環境整備
九州北部豪雨では避難者が長期化したため、避難所支援も重要でした。
- トイレ・水・衛生環境の確保
- 高齢者・子どもの健康チェック
- 生活空間の区画整理
- 住民の不安解消のための対話
水害後の避難所は湿度が高く不衛生になりやすく、
衛生管理が非常に重要でした。
■⑥ 車両・資機材の大量汚損による整備作業
水害では多くの資機材が使用不能になるため、
緊援隊は以下を繰り返しました。
- 泥水で汚れた救助資機材の洗浄
- チェーンソーのメンテナンス
- ボートの点検
- 防火衣の洗浄・乾燥
整備を怠ると活動そのものが停止するため、 後方支援部隊の役割が非常に大きい災害でした。
■⑦ 行政・自衛隊・ボランティアとの広域連携
九州北部豪雨は被害が広域におよび、
消防単独では対応しきれない規模でした。
そのため、
- 自衛隊との水難救助・物資輸送
- 警察との行方不明者捜索連携
- ボランティアとの住民支援整合
- 行政との避難所運営調整
多機関連携が極めて重要でした。
■⑧ “真夏の水害”がもたらす暑熱ストレスと健康管理
九州北部豪雨は高温多湿の時期に発生することが多く、
- 熱中症
- 脱水
- 体力消耗
- 蒸し暑い宿営環境
- 防火衣の重さによる疲労
が深刻な問題となりました。
緊援隊は、
- こまめな水分補給
- 空調設備の確保
- 防火衣の脱衣タイミング調整
- 睡眠時間の確保
など、体調管理に全力を注ぎました。
■まとめ|九州北部豪雨は“複合災害への対応力”を大きく高めた
九州北部豪雨での緊援隊の活動は、
日本の災害対応に多くの教訓を残しました。
- 流木・土砂地帯での救助技術の強化
- ボート救助の高度化
- 空・陸・徒歩の複合ルート確保
- 行方不明者捜索の安全管理
- 避難所支援の重要性
- 後方支援の大切さ
- 暑熱環境での健康管理
これらの経験は、現在の災害対応に直接活かされています。
結論:
九州北部豪雨での活動事例は、緊急消防援助隊の“水害対応力を飛躍的に成長させた現場”。 元消防職員として、激流と土砂の災害は特に教訓が多いと断言します。

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