看護師不足が全国で深刻化しています。
2025年には27万人不足する可能性が指摘され、病院現場では離職率が高止まりし続けています。
特に救急医療を担う急性期病院では、看護師不足が“現場崩壊寸前”のレベルに達しつつあります。
これは医療だけではなく、防災・災害対応の根幹を揺るがす非常に大きな社会リスクです。
ここでは防災士として、医療崩壊が災害時に与える影響と、看護師不足の背景、今後の課題を整理します。
■① 「看護師不足」は医師不足以上に深刻な社会リスク
厚労省の推計では、2025年に最大27万人不足。
離職率は11.3%(正規)、新卒の8.8%も辞めている現状。
看護師は医療の最前線で、
- 観察
- 処置
- 判断
- 急変対応
- メンタルケア
など多くの役割を担うため、1人欠けるだけで現場の機能は大きく低下します。
看護師不足はそのまま、救急医療の機能低下=助かる命が助からなくなるという重大な問題です。
■② 特に深刻なのは「7対1病床」の現場
急性期病院に多い“7対1病床”とは、
看護師1人が患者7人を見る体制。
これは一般病棟よりも手厚い配置で、
重症患者や救急搬送の多い病院で採用されます。
しかしこの病床で看護師が不足すると、
- 急変に対応できない
- 観察の質が下がる
- 夜勤が過重になり離職が増える
- 残った職員にさらに負担がのしかかる
という悪循環が続きます。
■③ 激務なのに収入が見合わない構造的問題
急性期看護師は、
- 高度な医療知識
- 緊張感の高い現場
- 24時間体制
- 瞬時の判断
- 心身への強い負荷
といった過酷な現場で働いています。
しかし病院の収入源である診療報酬は“国が決めた固定価格”。
人件費比率が高い急性期病院では、
看護師の給与を上げたくても原資を確保するのが難しいのが現実。
「仕事の重さに対して待遇が釣り合わない」
このギャップが大量離職の大きな要因になっています。
■④ ブランクのある看護師が戻りづらい現実
看護師資格は維持できても、急性期現場は常に進化しています。
- 医療技術の高度化
- 電子カルテ・機器類の更新
- 夜勤・シフトの不一致
- 育児との両立困難
特に子育てで何年も仕事を離れると、
急性期病棟のスピードや知識を取り戻すのは簡単ではありません。
結果として、急性期に戻れる看護師は非常に少ないのです。
■⑤ 人材育成にも時間がかかる|「穴埋めできない穴」が広がる
急性期の看護師は“特殊技能の塊”。
育成には数年かかります。
つまり、
- 辞める人が多い
- しかし補充はすぐできない
という構造が続き、現場の疲弊は極限に達します。
これは防災の観点からも重大で、
災害時の医療提供能力が落ちる=死者増につながるため、決して無視できない問題です。
■⑥ 病院の集約化は「痛みを伴うが避けられない現実」
少ない人員を多くの病院に分散させる仕組みはすでに限界です。
今後必要なのは、
- 病院を集約
- 地域で分担
- 急性期は大規模拠点へ集中
- 慢性期や軽症は別施設で対応
という“地域医療の再編”。
現場が疲弊している今、
病院数をただ維持することが「安全」ではないのです。
■⑦ 看護師不足は災害医療にも直結する
大地震や大規模災害が起きれば、
- 急性期医療の需要が急増
- 避難所での衛生・健康管理
- 高齢者・持病患者のケア
- メンタルサポート
これらを担うのは看護師です。
しかし今のままでは、
災害時に必要な医療が提供できない地域が確実に出てきます。
防災と医療は一つの輪。
どちらかが弱くなると命が守れません。
■⑧ 今後必要なのは“仕組みから変える防災”
- 看護師の待遇改善
- 夜勤負担の軽減
- 子育てしながら働ける制度
- 急性期と慢性期の分離
- 地域医療の再編
- 災害時医療体制の強化
これは単なる医療課題ではなく、
国全体の防災力を支えるための必須改革です。
■まとめ|看護師不足は「医療の問題」ではなく“社会全体の防災課題”
看護師不足はすでに危険水域に達しています。
救急医療が維持できなければ、
災害時に助かるはずの命が確実に失われます。
結論:
看護師不足は、日本の防災力を根本から揺るがす最大級の社会リスク。
元消防職員・防災士として強く感じるのは、
“医療崩壊は災害の最初の引き金になる”ということです。
今こそ、医療・防災・地域が一体となって人命を守る仕組みをつくる必要があります。

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