冬の救急現場は、一年で最も過酷で、最も出動が多くなる季節です。
寒さ・感染症・停電・路面凍結・家庭内事故…。
これらが同時に発生しやすく、救急隊の負担は極端に増えます。
ここでは元消防職員として、
「冬の救急現場で本当に起きていること」 をリアルに解説します。
■① 冬は朝が“通報ラッシュ”になる
救急隊が最も忙しくなる時間帯があります。
それは冬の「朝7〜10時」。
理由は:
- 朝の冷え込み → 心筋梗塞・脳梗塞が急増
- 血圧が急上昇し、倒れる人が多い
- 戸外に出た瞬間に呼吸が苦しくなる高齢者
- トイレで倒れるヒートショック
朝の一時間で3件連続出動…という現場は珍しくありません。
■② ヒートショックは“静かに命を奪う”
冬の救急で多いのが 浴室での倒れ。
現場では:
- 浴槽の中で意識なし
- 洗い場で倒れて冷え切っている
- 脱衣所で発見される
など、非常に重篤なケースが多いです。
浴室事故の死者は 交通事故の約3倍。
“静かな災害”として救急隊は冬の浴室を最も警戒します。
■③ 在宅医療家庭の停電は“秒で緊急事態”
冬は停電が増える季節。
特に以下の家庭では命に直結します。
- 在宅酸素
- 人工呼吸器
- 吸引器
- 電動ベッド
- 自動注入ポンプ
停電によって機器が止まると、
数分以内に重篤化 することがあり、救急隊は最優先出動になります。
現場では家族が必死に手動で介助しているケースも多々あります。
■④ 感染症の搬送が急増する
冬はインフル・コロナ・RSウイルスなどの季節。
救急現場では:
- 発熱で動けない
- 呼吸困難
- 酸素飽和度(SpO₂)低下
- 意識障害
- 子どもの高熱けいれん
こうした通報が深夜まで続き、
隊員はフル防護服で何件も対応します。
防護服・換気・消毒で、冬の現場の負担は倍増です。
■⑤ 路面凍結・転倒事故が一気に増える
冬の救急で特に多いのが 交通事故・転倒。
- 凍結路面でのスリップ
- 自転車転倒
- 雪道での転倒骨折
- 雪かき中の腰痛・心臓発作
朝の出勤ラッシュと重なるため、
短時間で事故が集中することが多いです。
■⑥ 住宅火災が増え、救急と消防が同時多発
冬は火災も多発する季節。
- ストーブ火災
- 電気毛布の誤使用
- コンセント過熱
- こたつ布団の発火
- 石油ストーブによる一酸化炭素中毒
火災現場では救急隊が 負傷者・煙吸入者・逃げ遅れ を次々搬送します。
“救急と消防が同時多発” は冬の特徴です。
■⑦ 低体温症は屋外だけでなく“家の中”でも起きる
救急で冬に増えるのが 室内低体温症。
現場では:
- 暖房が壊れていた
- 電気代が払えず暖房なし
- 一人暮らしの高齢者が気づかれず倒れていた
- 布団が薄く体温が奪われた
など、「屋内なのに体温が30℃台」というケースが本当にあります。
■⑧ 救急隊も“過酷な現場”に追われる
冬の救急は隊員にとっても非常に過酷です。
- 氷点下で防護服を着る苦しさ
- 結露でストレッチャーが滑る
- 雪で救急車が近づけない
- 階段で搬送する危険
- 病院も満床で受け入れ困難
「搬送先が見つからない」
という冬の現場は珍しくありません。
■まとめ|冬の救急現場は“複数の災害が重なる季節”
冬の救急が過酷になる理由は以下の通りです。
- 朝の冷え込みで心疾患・脳疾患が急増
- ヒートショック多発
- 停電で在宅医療機器が停止
- 感染症蔓延で救急要請が激増
- 凍結路面で事故多発
- 冬の火災が増える
- 家の中でも低体温症
- 病院の受け入れが困難になる
結論: 「冬は災害が重なり、救急隊が1年で最も忙しい季節」
元消防職員として言えるのは、
冬の救急は“防げる事故”が非常に多く、
事前の防寒・感染対策・住環境の改善が命を守る鍵 だということ。
あなたの家庭の冬の備えが、救急搬送を“防ぐ力”になります。

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