医療現場で幅広く使われる漢方薬。その原料の約8割が中国産に依存していることをご存じでしょうか。
地政学リスクが高まり、物流も不安定になりやすい今、災害対策の観点からも「国産原料の確保」は重要度を増しています。
今回は、福岡で始まった“漢方原料を国産化する取り組み”をもとに、
防災×医療供給リスクという視点でまとめます。
■① 漢方の需要が急増、なのに原料の8割が中国産
飯塚病院(福岡・筑豊)では、全国でも珍しい入院治療が可能な漢方診療科を運営し、30年以上も専門治療を続けています。
漢方は
- 足りないものを補い
- 体質に合わせ
- 自然由来の生薬を組み合わせる
という特徴があり、近年では
✔ 新型コロナ後遺症
✔ 自律神経の不調
✔ 子どもの起立性調節障害
など幅広い治療分野で利用が増加。
生産額はこの20年間で2倍以上に拡大しています。
しかしここで問題が。
生薬の8割は中国依存。国内産はわずか1割。
日中関係の緊張、輸出規制、物流障害が起これば、日本の医療現場は大きな影響を受けます。
■② 防災の視点からも“国産原料”は必要
地震・豪雨・台風などの自然災害が増える日本では、
医薬品の供給途絶は命に直結するリスクです。
特に漢方薬は
- アレルギー患者
- 高齢者
- 妊婦
- 体質治療が必要な人
など、多くの弱者にとって重要な治療手段です。
原料の大半が海外依存という状態は、防災の観点からみても大きな脆弱性になります。
■③ 福岡県で始まった“薬草原料の国産化プロジェクト”
福岡県は2024年度から、
『四王寺県民の森』(大野城市・宇美町など)で薬用植物の自生調査を開始。
第一薬科大学 漢方薬学科の森永教授と共同で、原料栽培の可能性を探っています。
森永教授が示したのは「サラシナショウマ」。
地中の成分が炎症や痛みを抑える効果を持ち、「ショウマ」という名で漢方薬として広く使用される重要な薬草です。
福岡県はこの調査をもとに、
国産の薬草栽培 → 医療機関への安定供給
という流れの実現を目指しています。
■④ なぜ“防災×医療供給”の視点が必要なのか?
災害時は薬の供給が止まりやすく、特に慢性的に必要な薬ほど影響が大きくなります。
●中国依存のリスク
- 国際関係の悪化
- 輸出規制
- サプライチェーン寸断
- 物流の滞り(港・空港停止)
どれか一つが起きるだけで、日本の医療現場が薬不足に陥る可能性。
●国内災害のリスク
- 地震で倉庫が崩れる
- 豪雨で物流が止まる
- 道路寸断、輸送遅延
- 人手不足、配送不能
“医薬品の安定供給”は、防災の根幹です。
■⑤ 国産漢方が普及すると、地域が強くなる
国産原料が増えれば、
✔ 供給安定
✔ 災害時の入手性向上
✔ 医療機関の備蓄強化
✔ 地域での生産・雇用創出
✔ 国際リスクの軽減
と、防災面・経済面ともに大きなメリットがあります。
特に福岡のように災害リスクが高い地域では、
医療の自給率を上げることそのものが防災対策になります。
■まとめ|漢方原料の国産化は“薬の防災力”を高める
今回のテーマで言える結論は1つ。
医薬品の供給安定は、防災そのもの。
漢方薬は需要が増え続けているにも関わらず、原料の大半を海外に依存している“弱点”があります。
福岡で始まった薬草調査と栽培研究は、
今後の災害対策・医療供給を支える重要な一歩です。
地域で育つ薬草が、未来の命を守る。
防災士としても強く注目すべき取り組みだと感じます。

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