災害現場では、負傷者が自力で歩けない状況が頻発します。
そのとき必要なのが 搬送技術(搬送訓練) です。
搬送は力だけではなく、
“正しい姿勢・支え方・声かけ” が最も重要。
この記事では、元消防職員として
現場で確実に役立つ搬送方法と訓練ポイントを解説します。
■① 搬送訓練が必要な理由
災害時は以下の状況が多発します。
- 骨折・ねんざで歩けない
- 高齢者や子どもが逃げ遅れる
- 瓦礫や段差で転倒の危険
- 呼吸困難や体調不良で歩行困難
- 火災・地震で避難を急ぐ
正しい搬送スキルを知らないと、
負傷者の症状悪化・二次事故・搬送者のケガにつながります。
■② 搬送の基本原則「近い・低い・安定」
搬送はシンプルですが、安全確保が最優先です。
✔ 体を“近づける”
距離があると支えられず転倒させやすい。
✔ 姿勢を“低く”
膝を曲げて行う。腰を痛めないために必須。
✔ “安定”を最優先
力よりも“重心の使い方”が大切。
これだけで搬送は格段に安全になります。
■③ 一人で行う搬送法(応急的・短距離向け)
●背負い搬送
- 子どもや軽量者向き
- 両手が使える
【ポイント】
・背中をまっすぐにする
・声かけをしながらゆっくり立ち上がる
●抱きかかえ搬送
- 乳児・低体重者向け
- 階段の昇降に便利
【ポイント】
・必ず胸と腰を両腕で固定する
・急な動作をしない
●引きずり搬送
煙が出ている時、立てない時に有効。
- 肩の下に手を入れて引く
- できるだけ“床に体を預ける”形で移動
【注意】
首・背骨を曲げるのは厳禁。
■④ 二人で行う搬送法(最も安全で一般向け)
●二人抱き(ハンモック法)
- 二人が向かい合い、互いに手首をつかむ
- ハンモック状に座面をつくる
- 負傷者に腰掛けてもらう
【特徴】
・支えが広く安定
・高齢者の搬送に特に有効
●四つ手法(背もたれ式)
- 二人が背中合わせに腕を組み座面を作る
- 負傷者を座らせ、背もたれとして支える
【特徴】
・体力のない人でも搬送可能
・階段で非常に使いやすい
●二点支持搬送(脇抱え)
- 両脇に入り、肩を支えながら歩く
- 歩けるが不安定な負傷者向き
【ポイント】
・両側で「歩幅」「速度」を合わせる
■⑤ 担架搬送の基本(応急担架・正式担架共通)
担架を使うときの重要ポイントです。
- 必ず「頭側」と「足側」のリーダーを決める
- 「せーの」で声を合わせて持ち上げる
- 急に持ち上げない(腰を痛める原因)
- 階段は “頭側が上”
- 揺らさない・傾けない
担架搬送は2〜4人で行うのが基本です。
■⑥ 搬送中に絶対にやってはいけないこと
- 無理に立たせる
- 負傷者の痛む部分を握る
- 一気に持ち上げる
- “力だけ”で支えようとする
- 声をかけずに勝手に動かす
搬送の9割は 「安全な姿勢」+「声かけ」で決まります。
■⑦ 搬送訓練で身につく“本当の力”
搬送訓練は単なる体力訓練ではありません。
- 人を扱う時の“恐怖”を減らす
- 役割分担と連携が身につく
- 余計な力を使わない技術が身につく
- 負傷者の痛み・不安に寄り添える
- 正しい判断(動かすべき/動かさないべき)ができる
特に最後の「判断力」は訓練でしか身につきません。
■⑧ 家庭でできる簡単搬送トレーニング
家庭でも安全に練習できます。
- ぬいぐるみで抱きかかえ練習
- 子どもの手を支えて歩く練習
- 毛布を使った応急担架搬送
- 声かけの習慣づけ(動き始め前に必ず合図)
子どもと一緒にやると、防災教育としても最適。
■まとめ|搬送訓練は“命を安全に運ぶ技術”
- 搬送は力より“姿勢と安定”
- 一人搬送は応急的、二人搬送が理想
- 担架搬送は声かけと連携がすべて
- 判断ミスが事故につながる
- 訓練するほど安全性が上がる
搬送訓練ができるだけで、
避難所・家庭・職場の安全性は大きく向上します。
■元消防職員から最後に
消防現場では、
「正しく搬送できていれば助かっていた」
というケースをたくさん見てきました。
搬送は“誰でもできる”のではなく、
“訓練して初めて安全にできる”技術です。
今日できる一歩は――
→ 家の毛布で1回、応急担架を作ってみること。
それだけで、防災力はひとつ大きく前進します。

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