災害が大きくなるほど、「助かった後の生活」が長く、複雑になります。令和7年の法改正は、避難所だけでなく在宅避難や車中泊など“多様な避難”を前提に、支援を現場で回しやすくする方向へ動きました。家庭の備えにも、自治体・現場の動きにも関わるポイントを、噛み砕いて整理します。
■① 災害救助法は「何を助ける法律」か
災害救助法は、被災直後から生活再建の入口までに必要な「救助(支援メニュー)」を、公費で迅速に実施するための枠組みです。食事・水・寝る場所・応急仮設住宅など、いわゆる“避難生活の基盤”を整えるために使われます。
ここで重要なのは、災害救助法は「被災者に我慢をお願いするための制度」ではなく、「生きるための最低限を確保する制度」だという点です。現場では物資より先に“支援の段取り”が立つかどうかで、避難生活の苦しさが大きく変わります。
■② 改正(令和7年)で大きく変わる方向性
令和7年の改正は一言でいうと、「避難所中心から、多様な避難生活全体を支える方向へ」です。
実際の被災地では、避難所に入れない・入らない人も一定数います。在宅避難、車中泊、親戚宅など、分散した避難が普通になりました。ところが支援が“避難所にいる人”を基準に組み立てられると、見えない困りごとが置き去りになりやすい。そこを制度側から補強する考え方です。
■③ 「福祉サービス」が救助の枠に入りやすくなる意味
改正のポイントの一つが、避難生活での福祉的支援を扱いやすくすることです。高齢者、障がいのある方、乳幼児、持病のある方は、食事と寝床だけでは生活が回りません。
例えば、在宅避難で「動けない」「薬が管理できない」「トイレが難しい」といった状態が続くと、災害関連死のリスクが上がります。救助の枠として福祉的支援を位置づけることで、支援が“善意”に頼り切らず、継続しやすくなります。
被災地派遣の現場でも、最初の数日は何とか耐えても、1〜2週間で一気に体調と心が崩れていく人を何度も見ました。制度がそこに寄ってきたのは、現場感覚としても大きいです。
■④ 協力団体・民間の力を「制度として使う」方向へ
大規模災害では、行政だけでは手が足りません。だからこそ、支援団体・事業者・地域組織が入って初めて支援が回ります。
改正の狙いは、協力を“場当たり”ではなく、制度として位置づけ、役割を明確にして動きやすくすることです。これにより、避難所の運営、物資の配布、要配慮者の見守りなどが、誰が何をやるのか整理されやすくなります。
■⑤ 家庭に関係する「見落とされがちな変化」
法改正は行政の話に見えますが、家庭の備えにも直結します。理由はシンプルで、支援が届く前提が「避難所一択」ではなくなっているからです。
つまり、
・在宅避難でも支援につながる可能性が高まる
・車中泊など分散避難でも支援の対象になり得る
一方で、
・支援につながるには“見つけてもらう工夫”が必要
という現実は残ります。
家庭側でできる最小の準備は、「我が家はどこに、何人で、どんな状態で避難しているか」を早く伝えられる状態を作ることです。連絡手段が切れた前提で、紙に書いたメモ(住所・家族構成・持病・服薬・緊急連絡先)を非常持出袋に入れておくだけでも支援につながりやすくなります。
■⑥ 誤解されがちポイント:届けばOKではない
誤解されがちなのは、「制度がある=必ず希望通りの支援がすぐ届く」という期待です。制度は“できることの枠”を広げますが、現場は人手・道路・通信・燃料で制約されます。
だからこそ家庭の基本は変わりません。
・最初の72時間は自力で回す前提
・支援が来たら“遠慮せずに必要を伝える”
この両方が大事です。
元消防職員としても、現場で一番困るのは「困っているのに声が上がらないケース」です。制度が整っても、必要が見えなければ届きません。
■⑦ 自治体・職場目線での実務メリット
自治体・企業・施設側では、改正は「受援(外部支援を受ける)を回しやすくする」側面があります。大規模災害では、応援部隊や支援団体が入りますが、受け入れ側の整理が弱いと渋滞します。
実務で効くのは、次のような“ルール化”です。
・窓口一本化(問い合わせ・調整の入口を一つにする)
・条件で動く(震度や警報などで自動的に起動する)
・現物確認をチェックリスト化(鍵、発電機、トイレ、水、名簿)
この整理が進むほど、救助が「早く・漏れなく」なります。
■⑧ 今日からできる準備(家庭・地域・担当者)
改正を受けて、現場も家庭も「分散避難を前提にした情報整理」が鍵になります。
家庭で今日やること(最小):
・紙の連絡カードを作る(住所/家族/持病/連絡先)
・停電時に使うライトと電池を“ひとまとめ”にする
・避難所以外の選択肢(車中泊・親戚宅)も家族で共有する
地域・担当者で今日やること(最小):
・要配慮者の「見つけ方」を決める(声かけ手順)
・協力団体の連絡先を1枚にまとめる
・受援の入口(誰が受けるか)を決めておく
■まとめ|災害救助法改正(令和7年)を、家庭の安心に変えるコツ
改正の方向性は、「避難所に来た人だけ」ではなく、「どこで避難していても、支えられる社会へ」です。だから家庭の備えも、“避難所以外”を含めて組み直すのが効果的です。
結論:
支援は広がる。だからこそ「見つけてもらえる準備(情報の用意)」が、家庭の生存率を上げます。
防災士として被災地を見てきた実感ですが、物資の不足よりも「支援につながれない孤立」が人を追い詰めます。制度が整うほど、最後に効くのは“伝える仕組み”です。家の中の小さな紙1枚が、命をつなぐことがあります。
出典:内閣府 防災情報のページ「災害対策基本法等の一部を改正する法律(令和7年法律第51号)」https://www.bousai.go.jp/taisaku/kihonhou/kihonhou_r7_01.html

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