動画は倍速、答えは検索ですぐに出る時代。
「早く」「効率よく」が当たり前になった私たちにとって、焚き火の前で炎が育つのを待つ時間は、最初は退屈に感じるかもしれません。
しかし、防災の現場を経験してきた立場から言えるのは、“待てる人”ほど災害時に強いということです。
焚き火の時間は、単なるレジャーではなく、心の防災訓練になります。
■① 焚き火にはショートカットがない
火は一瞬で完成しません。
・細い枝から火種を作る
・酸素を送り、炎を育てる
・薪を組み直し、構造を整える
急いで太い薪を放り込めば、酸欠で消えてしまうこともあります。
焚き火は「段階を飛ばせない」体験です。
このプロセスの反復が、「結果を急がない力」を身体に刻みます。
■② 「待つ時間」が観察力を育てる
焚き火の前で子どもは最初、「まだ?」と聞きます。
しかし、やがて炎をじっと見つめるようになります。
音:パチパチという爆ぜる音
色:炎の色の変化
匂い:樹種ごとの違い
動き:風による揺らぎ
待つ時間は、受動的な時間ではありません。
五感を使った“観察の時間”へと変わります。
この観察力は、災害時にとても重要です。
煙の匂い、風向き、周囲の変化に気づけるかどうかは、命に直結する場面もあります。
■③ 焚き火と「1/fゆらぎ」|心を整える作用
炎の揺らぎには「1/fゆらぎ」と呼ばれる自然のリズムが含まれるとされます。
これは心拍や脳波のリズムに近い性質を持つと報告されています。
だからこそ、焚き火の前では自然と呼吸が整い、頭の中のノイズが消えていきます。
私は被災地派遣の後、緊張が抜けない時期に焚き火の前に座ったことがあります。
炎を見つめるうちに呼吸が深くなり、判断の整理ができるようになりました。
焚き火は単なる熱源ではなく、「心を整える装置」にもなります。
■④ 災害時に本当に必要なのは「待てる力」
災害時は、すぐに答えが出ません。
・支援物資が来るまで待つ
・余震が収まるまで待つ
・家族と再会するまで待つ
この“待つ時間”に感情が暴走すると、判断を誤ります。
能登半島地震の対応でも、情報が錯綜する中で冷静に待てる人ほど、家族を守る行動が取れていました。
「焦らない力」は訓練でしか育ちません。
焚き火は、その練習になります。
■⑤ プロセスを尊重する力が生きる力になる
焚き火が教えるのは「プロセスの価値」です。
結果だけを求めるのではなく、
火が育つ段階を理解し、
酸素や薪の配置を考え、
失敗から学ぶ。
これは防災と同じです。
避難判断も、情報収集も、感情コントロールも、すべてプロセスです。
焦って飛ばせば失敗します。
■⑥ 家族で同じ炎を見る時間の意味
焚き火の前では、会話が生まれます。
あるいは、何も話さない沈黙が生まれます。
家族が同じ方向を向き、同じ炎を見つめる時間。
これは非常時に家族が分断されないための土台になります。
被災地で感じたのは、日常的に対話がある家庭ほど、避難時の意思決定が早いということです。
炎を囲む時間は、心の結束を強めます。
■⑦ 便利さを一度手放す体験
便利な生活は悪ではありません。
しかし、常に即時性に囲まれていると、「待てない心」になります。
焚き火は、自然のペースに合わせる体験です。
風が強ければ火は揺れる。
薪が湿っていれば燃えにくい。
自然のリズムに合わせる感覚は、防災に直結します。
■⑧ 「待つ力」は判断力を守る
待つことは、感情をコントロールすることです。
・すぐに怒らない
・すぐに諦めない
・すぐに結論を出さない
これは変化の激しい災害現場で最も重要な力です。
元消防職員として断言します。
緊急時に強い人は、特別な人ではありません。
一呼吸置ける人です。
■まとめ|焚き火の時間は心の防災訓練
焚き火の前で過ごす時間は、無駄ではありません。
それは家族で「待つ力」を取り戻す時間です。
結論:
焚き火で育つ「待つ力」は、災害時に家族を守る判断力になる。
被災地派遣を経験した防災士として感じるのは、
冷静さは知識ではなく、習慣から生まれるということです。
炎の前で、ただ待つ。
その時間こそが、家族の耐災害力を静かに育てます。
出典:Yahoo!ニュース「焚き火の前で『ただ待つ』という贅沢。スマホの倍速視聴に慣れた私たちが炎から取り戻すべき“時間の感覚”」(2026年2月7日)

コメント