災害の備えで意外と後回しにされやすいのが、簡易トイレや携帯トイレの準備です。
水や食料は意識していても、トイレだけは「何とかなるだろう」と考えてしまう家庭は少なくありません。
ですが、実際の災害では、断水や下水の不具合、停電、配管損傷などで、普段のトイレが使えなくなることがあります。
しかも、トイレは我慢すれば済むものではありません。
不足すると、脱水、体調不良、衛生悪化、避難生活のストレス増大につながります。
だからこそ、簡易トイレは「あると安心」ではなく、使えなくなる前提で必要数を持っておくものと考える方が現実的です。
では実際、どれくらい必要なのでしょうか。
迷ったときは、感覚ではなく“回数”で考えると判断しやすくなります。
■① まず基本は「1人1日5回前後」で考える
簡易トイレの必要量を考えるとき、最初の基準になるのは排泄回数です。
災害時トイレの備えでは、一般的に1人あたり1日5回程度を目安に考える方法が広く使われています。
つまり、1人分なら
5回 × 日数
で考えるのが基本です。
4人家族なら、
5回 × 4人 × 日数
となります。
ここで大事なのは、「うちはそんなに使わないかも」と少なめに見積もらないことです。
災害時は生活リズムが崩れ、寒さや緊張、食事内容の変化、子どもや高齢者の体調変化で、想定より回数が増えることもあります。
トイレは足りなくなると一気に困るので、少なめ見積もりは危険です。
■② 何日分あればいいのか
次に考えるべきなのは日数です。
ここで迷う人が多いのですが、実用的には最低でも3日分、できれば7日分を意識しておくと安心です。
なぜなら、断水や配管トラブル、支援物資の到着、流通の回復には時間差があるからです。
地震でも大雨でも、最初の数日は「すぐ元に戻る」とは限りません。
例えば1人暮らしなら、
5回 × 7日 = 35回分
4人家族なら、
5回 × 4人 × 7日 = 140回分
これが一つの現実的な目安になります。
「そんなに必要なのか」と感じるかもしれませんが、災害時のトイレは、足りない方がはるかに深刻です。
水や食料と違って、途中で代用品が作りにくいのも特徴です。
■③ 家族構成によって必要数は増やした方がいい
必要量は一律ではありません。
家族構成によって、余裕を持たせた方がよい場合があります。
例えば次のような家庭です。
・小さな子どもがいる
・高齢者がいる
・女性が多い
・持病がある
・下痢しやすい体質の人がいる
・介助が必要な家族がいる
こうした家庭では、単純な「5回×人数」だけでは足りなくなることがあります。
特に子どもは我慢が難しく、高齢者はトイレ回数が増えることもあります。
体調不良が重なると、想定より早く消費してしまいます。
元消防職員としての感覚でも、災害時に苦しくなるのは「平均家庭」ではなく、「少し事情がある家庭」です。
だからこそ、自分の家を平均値に無理やり合わせるのではなく、少し多めに持つという考え方が安全です。
■④ 「簡易トイレ」と「携帯トイレ」の違いも見ておく
備えるときは、名称の違いに迷うことがあります。
一般には、便器やバケツにセットして使うもの、排泄袋中心のもの、凝固剤付きのものなど、いろいろなタイプがあります。
ただ、家庭防災で大事なのは細かい名称より、何回使えるかです。
1セットで1回分なのか、複数回分なのか。
袋と凝固剤が別なのか、一体型なのか。
保管しやすいか、交換しやすいか。
家族が実際に使えるか。
ここを見ずに「安かったから買う」と、いざというときに使いにくいことがあります。
特に夜間、寒い時期、子どもや高齢者が使う場面を想定すると、単純な回数だけでなく、使いやすさも重要です。
■⑤ よくある失敗は「少しだけ買って安心すること」
簡易トイレでよくある失敗は、10回分、20回分だけ買って「備えたつもり」になることです。
もちろんゼロよりは良いですが、家族で数日過ごす前提なら、かなり心細い数量です。
例えば4人家族で1日5回ずつ使えば、
1日で20回分
になります。
つまり20回分は、1日でなくなる計算です。
ここがトイレ備蓄の怖いところです。
水や食料は減り方が見えやすいですが、トイレは「1回1回」が小さいため、買ったときは多く感じても、実際にはすぐ減ります。
被災地支援でも、トイレ問題は初動の生活ストレスを大きく左右します。
食べることより、出すことの方が我慢しにくい。
これは現場でも本当に大きいです。
■⑥ 迷ったら「7日分」で考えるのが安定する
家庭で迷ったときは、細かく悩みすぎるより、まず7日分を基準に考えた方が判断しやすいです。
理由は単純で、3日分だと心細く、7日分あるとかなり余裕が出るからです。
1人なら35回分。
2人なら70回分。
4人なら140回分。
5人なら175回分。
この数字を一度出してみると、必要量がかなり具体的に見えてきます。
そして、そのうえで収納場所、コスト、使いやすさを見ながら分散して備える。
これが現実的です。
全部を一箱にまとめるより、車、自宅、寝室近く、非常持ち出し周辺などに少し分けておくのも有効です。
■⑦ トイレ備蓄は「快適さ」ではなく「健康」を守る備え
簡易トイレは、ただ不便を減らすための備えではありません。
不足すると、水分を控える、食事を減らす、排泄を我慢する、といった行動につながりやすくなります。
その結果、脱水、便秘、体調悪化、衛生環境の悪化につながることがあります。
つまり、トイレ備蓄は衛生用品であると同時に、健康を守る備えです。
防災ではつい、水、食料、ライト、モバイルバッテリーに目が向きますが、トイレは生活の土台です。
ここが崩れると、避難生活そのものが苦しくなります。
防災士として言えば、簡易トイレは「目立たないけれど効く備え」です。
派手さはありませんが、実際に困ったときの効き方はかなり大きいです。
■⑧ まとめ
簡易トイレの必要量は、1人1日5回を目安に、最低3日分、できれば7日分で考えるのが現実的です。
迷ったら、
人数 × 5回 × 7日
で計算してみると必要数がはっきり見えてきます。
そして、小さな子ども、高齢者、持病のある方がいる家庭は、少し多めに見積もる方が安全です。
安さや箱の大きさだけで選ぶのではなく、使いやすさと総回数で見ることも大切です。
元消防職員としての感覚でも、災害時に生活を崩しやすいのは、特別な装備が足りない家庭ではなく、日常の土台が抜けている家庭です。
トイレはまさにその土台です。
迷ったら少なめではなく、多め。
これが、後悔しにくい備え方です。

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