【防災士が解説】防災×厳冬期避難|「後発地震注意情報」が突きつけた真冬の津波避難という現実

12月8日深夜、青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.5の地震が発生しました。津波警報が発表され、避難は厳冬期かつ深夜という最も厳しい条件の中で行われました。自動車による避難が多く、各地で渋滞も確認されています。これは単なる「避難マナー」の問題ではなく、真冬に徒歩で避難した後の居場所や低体温症リスクを、住民自身が現実的に考えた結果とも言えます。

この地震を受けて、運用開始後初めて「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表されました。これは7日間、巨大地震の可能性が相対的に高まったことを伝えるものです。しかし重要なのは、巨大地震は注意情報が出ないまま突然発生する可能性の方が高い、という事実です。だからこそ「もし近日中に起きたら」という視点で考えた備えを、日常に組み込むことが防災の本質になります。


■① 初の後発地震注意情報が示した意味

今回の注意情報は、特定の地震発生を予測するものではありません。あくまで「リスクが相対的に高まっている期間がある」という情報です。

ここで重要なのは、「情報が出たから備える」のではなく、「出なくても備えておく」ことです。南海トラフ地震臨時情報(注意)とも共通しますが、情報はきっかけに過ぎず、本番はいつ来るか分かりません。

防災を情報依存にすると、情報が出なかった時に判断が遅れます。自律的に考え、動ける備えが求められています。


■② 厳冬期・深夜の津波避難という過酷さ

今回の避難は、厳冬期・深夜・津波という三重苦の条件でした。徒歩避難が理想論として語られる一方で、真冬の屋外に長時間さらされるリスクは極めて高いものです。

特に津波から逃れた後、屋内に入れず寒冷な環境で待機せざるを得ない状況は、命に直結します。自動車避難が選択された背景には、「逃げた後の寒さ」という現実的なリスク判断がありました。


■③ 低体温症は津波後に静かに命を奪う

日本海溝・千島海溝沿いの巨大津波想定では、津波から逃れた後に低体温症の対応が必要となる人数が最大約6万6千人と試算されています。

低体温症による災害関連死は、主に以下の3つに整理されています。

・津波に巻き込まれ水に濡れる
・津波避難後、寒冷な環境にさらされる
・停電による暖房喪失

特に見落とされがちなのが、津波から「助かった後」に起きる低体温症です。これは静かに進行し、気づいた時には重症化していることも少なくありません。


■④ 能登半島地震が示した現実

令和6年能登半島地震では、避難生活の中で低体温症が関係した災害関連死が複数確認されています。津波がない地域でも、冬の避難は命のリスクを伴うことが明らかになりました。

これは北海道や東北だけの問題ではありません。寒冷期に災害が起きる可能性は全国にあり、他地域にとっても重要な論点です。


■⑤ 「近日中に起きたら」と考える防災の視点

後発地震注意情報の本当の価値は、「もし近いうちに起きたら」と真剣に考えるきっかけを与えた点にあります。

・真冬の夜に避難できるか
・逃げた後、暖を取れるか
・着替えや防寒具は持ち出せるか

この問いに日常から答えを用意しておくことが、防災の前進です。


■⑥ 日常に組み込む厳冬期避難の備え

厳冬期の備えは、特別な装備を増やすことではありません。日常に溶け込ませることが重要です。

・普段着を防寒性のある服装にする
・玄関近くに上着や手袋を置く
・車内や非常袋に防寒アイテムを分散配置する

防災専用品を揃えなくても、日常の延長線でできる備えは多くあります。


■⑦ 自律型避難と厳冬期防災の関係

厳冬期の避難では、「一律の正解」は存在しません。徒歩か車か、在宅か避難所かは、状況によって変わります。

重要なのは、自分で判断できる余地を残すことです。自律型避難とは、命を守るために柔軟に選択できる状態を作ることです。低体温症リスクを理解していれば、行動の質は確実に上がります。


■⑧ 事前防災を止めないという選択

注意情報の呼びかけ期間は終了しました。しかし、防災を止めてよい理由にはなりません。むしろ今回の事例は、事前防災を継続的に進める必要性を強く示しました。

災害は、備えたかどうかではなく、「備え続けていたか」で結果が分かれます。


■まとめ|厳冬期避難で命を守る防災とは

厳冬期の津波避難や避難生活では、低体温症が最大の敵になります。津波から逃げ切ることだけがゴールではありません。

結論:
真冬の災害では「逃げた後の寒さ」まで含めて備えた人だけが命を守れる

防災士として現場を見てきた中で、実際に多かった失敗は「助かった後の想定不足」でした。多くの人が津波や揺れには意識を向けていても、その後の寒さや着替えまで考えていませんでした。

また誤解されがちなのは、「避難=安全」という考え方です。厳冬期では、避難そのものが新たなリスクになる場合があります。行政側も本音では、すべての人に同じ行動を求めることの限界を感じています。

だからこそ、自律型避難の考え方と、避難服を含めた防寒対策を日常に組み込むことが重要です。防災は特別なことではなく、寒い日に上着を選ぶ感覚の延長にあります。

厳冬期の災害は避けられません。避けられないなら、静かに、現実的に備える。それが命を守る防災です。

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