消防団の現場では、
「退職報償金が出る前に退団する人がいる」
という話を、実際に耳にしたことがある地域も少なくありません。
ただし、これは全国一律の“慣例”ではありません。
あくまで地域差のある現象であり、運用と現場構造の中で
合理的な選択として起きているケースがある、というのが実態です。
元消防職員としての現場経験と、全国的な退団傾向を踏まえて整理します。
■① 退職報償金制度の趣旨は正しい
消防団員の退職報償金は、
勤続年数や階級に応じて市町村条例で支給される制度で、
本来は「長年の功労への感謝」が趣旨です。
近年は35年以上の区分が追加されるなど、
制度としての処遇改善も進んでいます。
制度そのものに、明確な誤りはありません。
■② それでも「前に辞める」判断が生まれる理由
現場で見えてくるのは、
制度よりも運用の問題です。
・退団時期を自分で決めにくい
・区切りを自分でつけたい
・年数を重ねるほど役割と責任が集中する
結果として、
「このまま続けると、最後が一番つらい」
という感覚が生まれやすくなります。
■③ ベテランほど負担が重くなる構造
全国的に消防団員の平均年齢は40歳を超え、
若手不足が常態化しています。
その中で、
・役職が外れにくい
・行事や調整役が集中する
・「できる人」に頼られ続ける
こうした状況が、
壮年・中年層の退団を加速させています。
「もう十分やった」と感じる時期と、
負担が最大になる時期が重なるのが問題です。
■④ 「止めない空気」は冷たさではない
「周囲も止めない」
「無理せず辞めた方がいいと言われる」
この空気は、個人への無関心ではありません。
構造的にどうにもならないことを、
皆が分かっているからです。
消防庁も、
活動環境整備や負担軽減を
課題として位置づけています。
■⑤ 問題は制度ではなく運用にある
退職報償金制度自体は、
本来評価されるべき仕組みです。
しかし、
・晩年ほど負担が増す
・役割の段階的移行がない
・「引き際」が設計されていない
この運用が、
「早めに辞める方が合理的」
という判断を生んでいます。
■⑥ 本来あるべき「終わり方」の設計
現場感覚として必要なのは、
・晩年は負担を軽くする
・指導・助言・後方支援への移行
・名誉的な位置づけの明確化
最後まで残る人ほど
守られる立場になる設計です。
■⑦ 早期退団は裏切りではない
「退職金前に辞めるのはおかしい」
という見方は、現場実態と合いません。
多くの場合、
無理を続けないための
合理的な判断だっただけです。
■⑧ 結論
「退職金が出る前に退団する」という現象は、
・制度誤りではなく
・全国一律の慣例でもなく
・運用と構造が生んだ結果
です。
人を引き止めることが
消防団の強化ではありません。
無理なく続けられ、無理なく終われる道を用意すること。
それが、これからの消防団運営に
本当に必要な視点です。

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