防災士の資格取得者が増え、地域の防災意識が底上げされているのは、とても大きな前進です。自助・共助の担い手が増えることで、災害時に「助かる確率」は確実に上がります。
一方で、「防災士監修」「防災士推奨」と書かれた防災グッズも一気に増えました。ここで大事なのは、防災士の役割を正しく理解し、言葉だけに判断を預けないことです。私は元消防職員として現場に立ち、防災士としても地域防災に関わってきましたが、備えは“肩書き”より“中身と運用”で差がつきます。
■① 防災士が増えることの価値は「平時の底上げ」
防災士が増える最大の意義は、災害の前にできることが増える点です。
・家族で避難の優先順位を決める
・地域で要配慮者の把握や声かけ体制を作る
・防災訓練を「形」ではなく「行動」に変える
被災地派遣の経験から感じるのは、災害時に強い地域ほど、平時から“誰が何をするか”が自然に共有されているということです。資格そのものより、行動が地域に残るのが価値です。
■② 防災士の本来の役割は「自助・共助の実行者」
防災士は、地域防災の基礎知識と心構えを学び、自分と家族を守り、地域で助け合うための力を身につける資格です。
つまり、防災士の中心は「現場でのリーダー役」であり、災害を減らすための“動ける人”を増やす制度です。災害時に必要なのは、完璧な知識より「落ち着いて、必要な行動を回す力」です。
■③ 「防災士監修=万能」ではない理由
ここは冷静に切り分けが必要です。
・防災士の学び:地域防災の基礎、避難、備蓄、救命など
・製品開発の学び:素材試験、耐久性評価、品質管理、保存試験、規格適合など
両者は役割が違います。もちろん、防災士が監修に関わること自体は悪いことではありません。ただ、「監修」と書かれているだけで、製品の品質や安全性が自動的に保証されるわけではありません。
■④ 「監修」に振り回されないための見方
判断はシンプルで大丈夫です。
・何ができる製品なのか(用途が明確か)
・根拠が書かれているか(性能・規格・条件)
・使う場面が想像できるか(自分の生活に合うか)
元消防職員として現場で見たのは、「良い道具を持っていたのに使えなかった」ケースです。重い、取り出せない、家族に合わない。だから“スペック”だけでなく“使える運用”が重要です。
■⑤ グッズ選びは「家庭の条件」が最優先
家庭によって必要な備えは変わります。
・子どもがいる(サイズ、食、衛生、安心材料)
・高齢者がいる(薬、歩行、体温管理、情報手段)
・アレルギーがある(非常食の成分確認)
・車移動が多い/徒歩避難が前提(重量と収納)
被災地派遣でよく見たのは、「標準セットが合わず、結局使わない」状態です。家に合う備えに調整するだけで、実戦力は上がります。
■⑥ 防災士が本当に力を発揮する場面
防災士が活きるのは、災害時の“前後”です。
・災害前:地域の声かけ、訓練の設計、家庭内の準備
・災害中:避難の判断、混乱の抑制、情報の整理、応急対応
・災害後:生活再建の段取り、疲労とストレスのケア、支援の橋渡し
LOとして現場調整に入った時も、役立ったのは「誰が困っているか」「何が不足しているか」を言語化し、関係者へつなぐ力でした。派手さはなくても、これが地域を守ります。
■⑦ 行政側が言いにくい本音:資格より「継続」が効く
行政の立場で見ると、資格取得者が増えるのはありがたい一方で、災害対応は資格だけでは回りません。
・名簿に載るだけでは、当日に動けない
・役割が曖昧だと、善意が混乱を生む
・結局、普段から関係がある人が強い
だからこそ、防災士として一番強いのは「平時に小さく続ける人」です。月1回の点検、年数回の訓練参加、顔の見える関係づくり。これが本物の防災力になります。
■⑧ 今日からできる「防災士らしい」備え方
資格を持つ/持たないに関係なく、次の3つは強いです。
・家族の避難行動を1枚で共有(誰が何を持つかまで)
・備蓄は量より運用(使って補充する仕組み)
・グッズは“試す日”を作る(背負う・開ける・使う)
被災地派遣の実感として、備えで差がつくのは「持っているか」より「迷わず使えるか」です。ここを作れた家庭は、災害時の判断が軽くなります。
■まとめ|
防災士が増えることは社会にとって大きなプラスです。ただし、防災士の役割は「自助・共助の実行者」であり、「監修」という言葉だけで製品の良し悪しを決めるのは危険です。大切なのは、根拠を見ること、家庭の条件に合わせること、そして運用として回すことです。
結論:
防災士の価値は“資格”ではなく、平時に備えを回し、地域で行動できる人が増えること。監修表示は参考にしつつ、最後は自分の生活に合うかで選ぶのが正解です。
元消防職員・防災士として強く感じるのは、災害時に助けになるのは「特別な道具」より、「迷いを減らす準備」と「落ち着いて動ける関係性」だということです。そこを作るのが、防災士の本当の役割です。
出典:特定非営利活動法人 日本防災士機構(防災士認証登録者数の公表ページ)
https://bousaisi.jp/about/donation

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