【元消防職員が解説】外国人傷病者対応訓練から学ぶ、救急現場で「通じる」ための備え方

救急の現場では、言葉が通じないだけで「症状」「既往歴」「アレルギー」「服薬」「痛みの場所」が正確につかめず、判断が遅れたり、誤解が生まれたりします。だからこそ、外国人傷病者を想定した訓練は“特別な話”ではなく、日常の救急の質を底上げする実務です。ここでは、音声翻訳アプリや専用カード、そして「やさしい日本語」を使った対応を、現場目線で整理します。


■① 外国人対応で起きやすい“詰まりポイント”

外国人傷病者対応で難しいのは、単に言葉が違うことだけではありません。症状の表現、痛みの伝え方、医療への不安、宗教・文化の背景などが重なって、こちらの意図が伝わらないことがあります。救急隊は短時間で観察・聴取・判断を進めますが、意思疎通が崩れると、必要な情報が抜け落ちやすくなります。


■② 音声翻訳アプリは“万能”ではなく「会話の入口」

音声翻訳アプリは、現場で非常に助かる道具です。ただし、医療・救急の会話は専門用語や細かいニュアンスが多く、翻訳結果が100点とは限りません。だからこそ、アプリは「第一声をつなぐ」「安心させる」「確認質問を繰り返す」ための入口として使うのが実務的です。
短い文で区切る、Yes/Noで答えられる質問にする、指差しと組み合わせる。これだけで通じ方が大きく変わります。


■③ 外国人専用連絡カードは“情報の抜け”を減らす

現場で怖いのは、必要情報が取れないまま搬送が進むことです。外国人専用連絡カード(HELPカードのようなもの)を活用すると、氏名・国籍・緊急連絡先・言語・既往歴・アレルギーなど、最低限の確認がしやすくなります。
私も被災地派遣(LO)で、避難所や現地本部の混乱の中、紙の情報が最後の頼みになる場面を何度も見ました。電池が切れる、通信が不安定、スマホが割れる。そういう時に“紙で残る”仕組みは強いです。


■④ 「英語より、やさしい日本語」が通じる場面がある

外国人=英語、とは限りません。英語が得意でない人も多いですし、相手が日本で生活している場合、簡単な日本語のほうが早く伝わることがあります。
ポイントは、短く、具体的に、言い換えることです。
例)
・「大丈夫ですか?」→「痛いですか?」「苦しいですか?」
・「安静にしてください」→「ここに座ってください」「動かないでください」
・「救急車で病院に行きます」→「いま、病院に行きます」


■⑤ 文化・宗教の違いは“配慮”ではなく安全の一部

触れてほしくない部位、同性対応の希望、食事や薬に関する禁忌など、文化・宗教の違いは現場判断に影響します。救急は「最優先は命」ですが、配慮を欠くと不信感が一気に増え、協力が得られず、結果として安全に不利になります。
訓練で「相手がしてほしくないこと」を共有しておくのは、現場の摩擦を減らし、対応速度を上げるための準備です。


■⑥ 伝わったかどうかは“確認”で決まる

通訳や翻訳が入っても、最後は「確認」が要です。
・同じ質問を別の言い方で聞く
・指差し(痛みの部位、呼吸、胸、腹)
・数字(0〜10)で痛みを聞く
・復唱(こちらが理解した内容を短く言い返す)
救急現場では「わかったつもり」が一番危ない。被災地でも、避難所運営でも、最後に事故を生むのは“確認不足”でした。


■⑦ 訓練は“道具の使い方”より「手順の統一」が価値

翻訳アプリやカードは、持っているだけでは意味がありません。誰が、いつ、どの場面で、どう使うか。迷わない手順があるかどうかで、現場の強さが変わります。
訓練の価値は、道具の性能比較ではなく、「現場で迷わない流れ」を隊として共有できることにあります。


■⑧ 家族・地域の側でもできる“外国人支援の備え”

外国人住民が多い地域ほど、地域側の備えも効きます。
・近所の外国人と、簡単な挨拶と緊急時の合図を決めておく
・集合場所を一緒に確認しておく
・体調不良時に見せられるメモ(持病・薬・アレルギー)を作ってもらう
私が現場で感じたのは、平時に少し関係があるだけで、災害時の不安が大きく減るということです。救急だけでなく、地域の安心にもつながります。


■まとめ|外国人傷病者対応は「通じる仕組み」を先に作る

救急現場で大切なのは、言葉の壁を“気合”で超えることではなく、通じる道具と手順を用意しておくことです。音声翻訳アプリ、専用連絡カード、やさしい日本語、文化理解、そして確認の型。これらを訓練で回せる隊は、日常の救急も強くなります。

結論:
外国人対応は「特別な救急」ではなく、普段の救急の質を上げる“型づくり”です。
私は元消防職員として、被災地派遣(LO)でも「言葉が通じない不安」が判断を鈍らせる場面を見てきました。逆に、短い言葉と確認の型、紙で残る情報があるだけで、現場は驚くほど落ち着きます。通じる仕組みは、命を守るスピードそのものです。

出典:埼玉県「やさしい日本語」https://www.pref.saitama.lg.jp/a0306/yasashi-nihongo/index2024.html

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