消防団の教育は、集合研修だけに頼ると「移動・日程・人員確保」が壁になりがちです。
結論から言うと、eラーニングは集合研修を置き換えるためではなく、集合研修の質と到達度を底上げするための“前後工程”として設計するのが最も成功します。
東京都内の全消防団員に対して平成30年10月から運用しているeラーニングは、その方向性を示す好例です。
■① まず前提:消防団教育は「継続」と「均一化」が一番むずかしい
消防団は勤務形態も生活環境もバラバラで、集合研修の出席率に波が出ます。
その結果、同じ年度でも団員の理解度・手技・安全意識に差が生まれます。
eラーニングが効くのは、この差を埋める「共通基礎」を作れるからです。
全員が同じ教材を同じ手順で学べるだけで、現場の事故リスクは下がります。
■② 現状運用の整理:動画教材は「事前学習」と「自己学習」に強い
ご提示の運用(動画教材をアップし、集合研修の事前学習+自己学習に活用)は、最も堅実です。
理由はシンプルで、集合研修の時間は有限だからです。
- 事前学習:用語・基本手順・安全注意を揃える
- 集合研修:手技・連携・判断の練習に時間を使える
- 事後学習:復習で定着、抜けを補う
元消防職員として訓練を見てきた実感ですが、集合研修は「説明」より「反復と修正」に時間を使った方が、確実に伸びます。
■③ 置き換え検討の落とし穴:講義を全部オンライン化すると“ズレ”が出る
講義をeラーニングに置き換える方向は合理的に見えますが、注意点があります。
- 受講した“つもり”が増える(視聴=理解ではない)
- 手技の癖が修正されない(自己流が残る)
- 質問が溜まる(心理的ハードルで聞けない)
- 現場連携が育ちにくい(小隊動作・役割分担は対面が強い)
結論は、「講義はオンラインでOK」ではなく、「講義のうち“オンライン向き”から移す」が安全です。
■④ 成功する分け方:オンライン向き/集合向きの線引き
オンラインに向く内容(置き換え効果が高い)
- 制度・基礎知識(消防団の役割、活動原則、安全管理)
- 装備の基礎(名称、点検、取り扱い注意)
- 活動要領の概説(流れ、合図、危険要因)
- 災害の基礎(風水害・地震の初動、避難支援の考え方)
集合研修でやるべき内容(対面で伸びる)
- 放水・中継・ホース延長などの手技
- 現場の役割分担、隊形、伝達
- 安全管理(ヒヤリの共有、KY、撤退判断)
- 実動に近い状況判断(複合災害、夜間、悪天候)
■⑤ “到達度”を見える化しないと、eラーニングは形骸化する
eラーニングは「見たかどうか」で終わらせると弱いです。
最低限、次の仕組みがあると運用が締まります。
- 受講期限(例:集合研修の2週間前まで)
- 小テスト(合格ライン、再受講)
- 受講率の可視化(分団・班ごと)
- 研修当日の確認(要点3つだけ口頭チェック)
被災地派遣(LO)でも、計画が機能する組織は「確認の仕組み」がありました。災害対応と同じで、教育も“回る仕組み”が勝ちます。
■⑥ 教材の作り方:動画は「短く・1テーマ・現場目線」が強い
動画教材は長いほど視聴完了率が落ちます。おすすめはこの型です。
- 5〜8分(長くても10分)
- 1本1テーマ(例:ホース結合だけ、可搬ポンプの始動だけ)
- 冒頭に「今日のゴール」(これができればOK)
- 最後に「事故の芽」(ここで怪我が起きる)
【元消防職員・防災士】として伝えるなら、事故の芽は必ず入れた方が良いです。安全意識が一段上がります。
■⑦ 集合研修とのつなぎ方:当日は“講義”を減らして“修正”に振る
事前に動画を入れているなら、当日の使い方はこう変えられます。
- 冒頭:確認(3分)+質疑(10分)
- 中盤:反復(短時間×回数)
- 終盤:連携(班で一連動作)
- 最後:振り返り(よかった点/次の改善1つ)
この運用に切り替えると、同じ集合研修でも「密度」が上がります。
■⑧ 次の一手:講義の置き換えより先に“教育設計図”を作る
さらなる活用を検討するなら、ツール拡張より先に、設計図が必要です。
- 何をオンラインへ(範囲)
- 何を集合で守るか(手技・連携・判断)
- どう評価するか(小テスト・実技チェック)
- 誰が更新するか(教材の鮮度と責任者)
結論として、eラーニングは「置き換え」より「集合研修の強化」に使う方が、現場で効きます。
まとめ
結論:消防団教育のeラーニングは、集合研修を丸ごと置き換えるよりも、事前学習・復習・到達度確認として組み込み、集合研修を“反復と修正”に集中させる設計が最も成功しやすい。オンライン向き/集合向きの線引きと、受講率・小テスト等の見える化が形骸化を防ぐ鍵になる。
現場経験としても、訓練は「説明」より「反復と修正」に時間を使った組織ほど、災害時の動きが安定していました。教育DXは、現場を強くするための手段として組むのが正解です。
出典
総務省消防庁「令和6年版 消防白書(消防防災分野におけるDX)」
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r6/report6/68296.html

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