「正しいと思ってやっていたことが、逆効果だった」──被災地ではこういう事例が繰り返されます。
知識のアップデートをしないまま続ける古い防災習慣が、命取りになることがあります。
■①「復電したらすぐ電気を使う」が火災を起こす
停電が復旧した瞬間、電化製品の電源を一斉に入れる人がいますが、これは通電火災の原因になります。
地震で電気機器が転倒・損傷した状態のまま通電すると、出火します。東日本大震災における火災原因のうち、特定されたものの過半数が電気関係だったことは内閣府の調査で明らかになっています。復電後はまずガス漏れ・機器の損傷を確認し、焦げた臭いがあればすぐブレーカーを落とすことが正解です。
■②「避難するとき窓を開けて換気」は火災時に逆効果
火災発生時に「空気を入れようと窓を開ける」行動は、延焼を加速させます。
酸素の供給が増えることで火勢が増し、あっという間に燃え広がります。また、開口部が増えると煙の流入経路も増えます。火災時は窓・ドアを閉めながら避難することが基本です。「新鮮な空気を入れよう」という善意の行動が、逃げ道を奪う結果になりえます。
■③「ハザードマップの色が薄いから安全」という過信
ハザードマップの浸水想定が薄い・または範囲外だからといって、安全と判断するのは危険です。
ハザードマップは過去のデータと想定に基づいており、想定を超える降雨・地形変化・老朽化した排水設備の影響は反映されていません。令和元年台風19号では、浸水想定区域外でも浸水被害が相次ぎました。「マップに色がない=安全」ではなく、「現在の雨量と状況を自分で判断する」姿勢が命を守ります。
■④「大きな揺れの後、ガスをつけて温かいものを飲もう」
地震の直後にガスコンロを使おうとする行動は、ガス漏れ時に爆発・引火を招く危険な行動です。
都市ガスのマイコンメータは強い揺れを感知すると自動停止しますが、プロパンガスや、メータが正常でも配管が損傷している場合は別です。地震直後はガス臭がないかを確認し、異臭があれば窓を開けて換気し、ガスは使わないことが基本です。
■⑤「大雨だから今すぐ車で避難」は最も危険な行動のひとつ
「早めに車で遠くへ逃げよう」という判断が、浸水した道路での車内水没事故につながります。
わずか30cmの水深でも車のドアは水圧で開かなくなります。大雨・洪水時には車での避難は禁止に近い判断です。徒歩・高い建物への垂直避難・屋内安全確保が優先です。「逃げるべき」という正しい意識が、「車で逃げる」という間違った手段と結びつくことで命を落とします。
■⑥「備蓄食料はアルファ米だけあれば安心」という思い込み
アルファ米は確かに優れた保存食ですが、「水があればすぐ食べられる」という前提が崩れる状況があります。
断水時に飲料水を調理に回すと、飲み水が不足します。また、アレルギー対応・嚥下困難・乳幼児食・薬との食事管理が必要な家族がいる場合は、一般的な非常食だけでは対応できません。非常食は家族の「食の特性」に合わせて選ぶ必要があります。
■⑦「隣の家が逃げないから、うちも大丈夫」という同調行動
周囲が逃げていないことを安全の根拠にする「正常化バイアス」が、逃げ遅れを生みます。
被災地で「周りが逃げていなかったから」という証言は非常に多いです。避難の判断は周囲の行動ではなく、自分のいる場所のリスクと公式の避難情報を根拠にするべきです。他人が逃げていなくても、あなたが逃げる判断は正しい場合があります。
■⑧「子どもに怖い思いをさせたくない」が避難訓練を遠ざける
「怖くなるから」という理由で防災教育・避難訓練を避けてきた家庭は、いざというときの初動が遅れます。
子どもは知らないことに対して恐怖を感じます。知っていることは怖くありません。避難訓練・ハザードマップの確認・非常食の試食を「日常の遊び」として体験させておくことで、子どもは落ち着いて行動できます。「知ること」は怖さを減らすのです。
■まとめ|間違った防災が危険になる構造は「善意+古い知識」にある
- 復電直後の通電確認なしは通電火災を招く
- 火災時に窓を開けると延焼が加速する
- ハザードマップ外でも浸水リスクはゼロではない
- 大雨時の車避難は車内水没のリスクがある
- 避難訓練は「怖くなるから」ではなく「怖くなくなるため」にやる
結論:
間違った防災が危険なのは「何もしないこと」より質が悪い場合があるから。年に一度、自分の防災知識を「最新の正解」に照らし合わせてアップデートする習慣が命を守る。
元消防職員として何度も現場に入る中で感じてきたのは、「備えていたのに助からなかった」ケースの多くが、知識のアップデートをしていなかったことが原因だということです。正しく怖がり、正しく備える。それが本物の防災です。

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