2017年の那須雪崩事故は、部活動の登山講習会中に発生し、多くの命が失われました。2026年3月4日、当時の教諭3人に有罪判決が出たという報道は、学校現場にとって「安全配慮の重み」を改めて突きつける出来事です。
防災は家庭だけの話ではなく、学校・部活動・地域活動にも直結します。元消防職員の視点から、判決の意味を「誰かを責める」ためではなく、「次の事故を減らす」ための実践に落とし込みます。
■①判決が示したポイントは「結果」ではなく「判断の過程」
今回の判決で重要なのは、事故が起きた後の結果論ではなく、事前にどんな情報があり、どんな判断ができたかという「判断の過程」です。
雪崩注意報や大雪注意報、積雪状況、斜面の条件など、危険を示す材料が積み重なっていたなら、「中止・変更」という選択肢を取れる立場の人には相応の責任が生じます。
部活動の安全は、気合いよりも、情報収集と意思決定の質で決まります。
■②部活動事故の怖さは「小さな無理」が重なって起きること
大きな事故の前には、たいてい「小さな無理」があります。
・予定通りにやりたい
・せっかく来たから少しだけ
・他校もやっているから
こうした心理が、危険情報の重みを薄めます。
災害現場でも同じで、崩落の危険がある場所ほど「少しだけ」が命取りになります。私は被災地派遣で、土砂災害の警戒区域に近い場所へ「一瞬だけ入った」ことで二次災害に遭いかけた例を何度も見ました。安全は、最初の一手で崩れます。
■③冬山・雪面は「経験がある人ほど油断する」環境
冬山は視界が良くても、足元の雪質・斜面の角度・風下の吹き溜まりなど、危険が見えにくい環境です。
登山経験が豊富でも、「今日は行けそう」に引っ張られることがあります。経験は武器ですが、過去の成功体験が判断を鈍らせることもあります。
現場では「経験者が最初に“やめる”と言えるか」が、チームの命運を分けます。
■④判断を軽くするための「中止基準」を先に決めておく
事故を減らす現実策は、当日の空気に左右されない仕組みです。
例えば、登山・雪上訓練なら、事前に中止基準を文章で決めます。
・雪崩注意報が出たら中止
・新雪が一定以上なら場所変更
・風速や視界条件で中止
・斜面角度の上限を設定
これは「勇気」ではなく「仕組み」です。
災害派遣でも、現場の進入判断は個人の度胸ではなく、ルールと根拠で統一するほど事故が減ります。LOとして動いた際も、危険区域の線引きが明確な現場ほど、隊員の消耗も少なく、活動が長続きしました。
■⑤顧問・引率者がやるべき「危険予知」の型
現場の危険予知は、難しい技術ではなく型で回せます。
1) 情報:注意報・警報・現地積雪・地形
2) 人:参加者の体力差・経験差・指導体制
3) 時間:撤退可能時間・日没・天候悪化のタイミング
4) 代替:中止・場所変更・内容変更の候補
ここまで整理すると、「やる・やらない」の議論が感情ではなく事実になります。
防災の基本は、判断材料を可視化して、迷いを減らすことです。
■⑥生徒側にも必要な「断る力」と合図の共有
安全は指導者だけのものではありません。生徒にも「危険を感じたら言っていい」空気が必要です。
・足が沈みすぎて怖い
・風で立てない
・斜面が嫌だ
こうした違和感を、途中で出せる仕組みが事故を止めます。
災害現場でも、「言い出せなかった」ために無理が継続し、怪我につながる場面があります。合図や合言葉を決めておくだけで、チームは止まりやすくなります。
■⑦遺族・社会が求めるのは「再発防止の実装」
判決は終点ではなく、再発防止の起点です。
教育現場は人手や時間の制約が大きい一方で、事故が起きたときの影響は計り知れません。
だからこそ、現場で回る範囲の仕組みを積み上げることが大切です。
・中止基準の明文化
・事前のリスク評価の記録
・代替案の準備
・引率体制の確認
これは現場に負担を増やすためではなく、「迷わなくていい状態」を作るための投資です。
■⑧防災は「怖がること」ではなく「判断を整えること」
雪崩事故の教訓は、冬山だけの話ではありません。
台風時の部活、猛暑の練習、遠征移動、夜間行事――すべてに「中止・変更の判断」があります。
私は被災地派遣で、避難所や地域活動の現場を見てきましたが、最終的に人を守るのは、装備よりも「判断が整っているか」でした。
学校も同じで、判断の仕組みがあるほど、守れる命が増えます。
■まとめ|判決を「誰かの責任探し」で終わらせず、事故を減らす仕組みに変える
部活動の安全は、気合いや根性では守れません。危険情報を正しく重く扱い、迷いを減らす仕組みを作ることが最短ルートです。
結論:
「中止基準を先に決め、危険予知を型で回し、当日の空気に判断を預けない」ことが、次の事故を減らします。
元消防職員として現場に立ってきた実感としても、危険な現場ほど“撤退を決められる仕組み”が命を守ります。判断を整えることは、誰かを縛るためではなく、未来の生徒と指導者を救うための備えです。
出典:スポーツ庁「冬山登山の事故防止について(通知)」

コメント