【防災士が解説】家具転倒防止器具はどこまで備えるべき?まず付けるべき家具を見極める判断基準

地震対策というと、非常食や水を思い浮かべる人が多いですが、家庭内で本当にけがにつながりやすいのは、家具の転倒や落下です。特に寝室、子ども部屋、出入口付近にある大型家具は、地震の揺れで倒れると避難の妨げにもなります。

そこで気になるのが、家具転倒防止器具です。ただ、家具全部に一気に取り付けようとすると、費用も手間もかかり、結局進まないことが少なくありません。大切なのは、「何を優先して固定するか」を判断することです。

この記事では、家具転倒防止器具をどこまで備えるべきか、何から始めるべきかを、家庭で実行しやすい形で整理して解説します。

■① なぜ家具転倒防止器具が重要なのか

地震で室内が危険になる大きな原因の一つが、家具の転倒・落下・移動です。東京消防庁は、近年の地震被害調査で、負傷者の約3〜5割が屋内における家具類の転倒・落下によって負傷しているとしています。

つまり、家そのものが倒れなくても、家の中でけがをする危険は十分にあるということです。防災では、家の強さだけでなく、室内の安全も同じくらい大切です。

特に夜間の地震では、寝ている場所の近くに家具があるだけで危険が大きくなります。さらに、家具が倒れて出入口をふさぐと、逃げ遅れにもつながります。家具転倒防止器具は、こうした「家の中の事故」を減らすための現実的な備えです。

■② すべての家具に必要なのか

結論から言うと、すべてに一律で付ける必要はありません。優先順位を付けて進める方が現実的です。

最初に対策すべきなのは、背の高い家具、大きく重い家具、倒れると人に当たりやすい家具です。具体的には、タンス、本棚、食器棚、冷蔵庫、テレビ台の上の大型テレビなどが代表です。

逆に、低くて軽い家具や、倒れても人に当たりにくい位置にあるものは、後回しでもかまいません。防災は「全部やるか、何もしないか」ではなく、危険の大きいところから減らしていく考え方が大事です。

■③ まず固定すべき場所はどこか

迷ったら、次の3か所から始めるのが基本です。

まず1つ目は、寝室です。寝ている間は逃げる判断が遅れやすく、家具が倒れてきても避けにくいからです。ベッドや布団の周辺に背の高い家具があるなら、ここが最優先です。

2つ目は、出入口付近です。倒れた家具が廊下やドア前をふさぐと、避難そのものが難しくなります。東京消防庁も、家具類のレイアウトを見直し、負傷や避難障害を発生させにくくすることの重要性を示しています。

3つ目は、子どもや高齢者が長く過ごす場所です。自分で危険を回避しにくい人がいる空間ほど、家具固定の効果は大きくなります。

■④ どんな器具を選べばいいのか

家具転倒防止器具にはいろいろありますが、基本は「家具の種類」「壁や天井の構造」「賃貸か持ち家か」で選びます。

最も効果が高いとされやすいのは、L型金具などで壁の桟や柱に固定する方法です。消防庁も、タンスや棚はL型金具などで壁の桟や柱に固定するよう案内しています。

一方で、賃貸住宅や壁に穴を開けにくい家庭では、この方法が難しいことがあります。その場合は、ストッパー式器具や粘着マット、ポール式器具を組み合わせる方法が現実的です。内閣府も、ストッパー式や粘着マットとポール式器具の「合わせ技」で効果を高める考え方を紹介しています。

大事なのは、「有名だからこれでいい」ではなく、自宅の条件に合っているかです。

■⑤ よくある誤解は何か

一番多い誤解は、「突っ張り棒だけ付ければ安心」という考え方です。

もちろん、ポール式器具にも意味はあります。ただし、天井の強度や家具の形状、設置位置が合っていないと、思ったほど効果が出ないことがあります。内閣府も、家具固定では壁の強度が重要であり、天井だけに頼る考え方には注意が必要だと示しています。

また、「重い家具だから倒れない」というのも誤解です。大きく重い家具ほど、倒れたときの危険は大きくなります。さらに、「新築だから大丈夫」「マンションだから安全」というのも別問題です。建物が耐えても、室内の家具被害は起こりえます。

■⑥ 家具固定より先にやるべきことはあるか

あります。実は、固定の前に「減らす」「置き方を変える」こともかなり重要です。

東京消防庁は、家具転対策を進める前に、生活空間の家具を減らす集中収納や、レイアウトの見直しを勧めています。これは非常に実践的です。固定器具を付けるより前に、寝室から背の高い家具を移すだけで危険が下がることもあります。

現場感覚でも、地震後は「固定していたか」だけでなく、「そこに置いていたかどうか」が大きいです。倒れる方向に寝る場所がある、通路をふさぐ場所に家具がある、この配置自体がリスクになります。

つまり、防災は器具を買うことだけではなく、家具配置の見直しも含めて完成します。

■⑦ 賃貸住宅ではどう考えるべきか

賃貸だから無理、とあきらめる必要はありません。

壁にビスを打てない場合でも、粘着マット、ストッパー式器具、ポール式器具、家具の配置変更など、できる対策はあります。内閣府も、賃貸住宅ではL型金具が難しい一方で、他の方法を組み合わせて対策する方法を紹介しています。

また、家具を高く積み上げない、重いものを上に置かない、出入口の近くに背の高い家具を置かないといった工夫は、賃貸でもすぐできます。完璧を目指すより、できる範囲で危険を減らす方が実際には続きます。

■⑧ 迷ったときの判断基準

迷ったら、次の3つで判断してください。

「倒れたら人に当たるか」
「倒れたら逃げ道をふさぐか」
「寝ているときに危ないか」

このどれかに当てはまる家具は、優先して対策した方がいいです。逆に、見た目が気になるだけ、何となく不安という理由の家具は後回しでもかまいません。

防災では、全部を一気にそろえるより、危険の大きい1台を確実に対策する方が意味があります。特に寝室、本棚、食器棚、タンスは、早めに見直す価値があります。

■まとめ

家具転倒防止器具は、地震対策の中でもかなり費用対効果の高い備えです。ただし、全部の家具に一斉に付けようとすると進みにくいため、まずは「人に当たる家具」「逃げ道をふさぐ家具」「寝室の家具」から優先して進めるのが現実的です。

器具の種類も、L型金具が向く家、ポール式やストッパー式を組み合わせた方がよい家など、それぞれ違います。大事なのは、自宅の条件に合った方法で、危険の大きい場所から減らしていくことです。

私なら、家具転倒防止器具は“全部そろえるもの”ではなく、“まず命に近い家具から付けるもの”として判断します。被災地でも、自宅でのけがや避難のしにくさは想像以上に大きな負担になります。だからこそ、寝室と出入口周辺の大型家具から、先に手を付けるのがおすすめです。

出典:消防庁「家具・家電製品・家具の転倒を防止」

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