【元消防職員・防災士が解説】強制進入技術とは?火災現場で“ドアを開ける技術”が命を左右する理由

「強制進入技術(Forcible Entry)」とは、
鍵が閉まっている、壊れている、熱で変形しているなどの理由で、通常の方法では開けられない扉や窓を“強制的に開ける”消防の専門技術 のことです。

火災・救助活動で必須のスキルであり、世界の消防で高い重要性を持つ分野です。


■ ① 強制進入技術が必要な理由

火災現場では、以下のように“普通に扉を開けられない場面”が多くあります。

  • 住民が避難できず鍵を閉めたまま倒れている
  • 火災熱で扉が膨張して開かない
  • 煙・炎の充満で内部確認が急務
  • 高齢者宅やマンションのオートロックで入れない
  • 事故車両のドアが変形して開かない

救助の遅れは命に直結するため、強制的に入口を開ける技術が不可欠です。


■ ② 実際に使われる道具

強制進入には、状況に応じて様々なツールを使い分けます。

代表的な器具

  • ハルガンツール(てこ・こじ開け専用の消防工具)
  • スレッジハンマー(打撃による破壊)
  • ボルトクリッパー(金属の切断)
  • チェーンソー、カッター
  • 救助器具(油圧拡張機など)
  • ガラス破砕棒

現場では複数人で連携し、数秒〜数十秒で入口を作ります。


■ ③ 強制進入の3つの基本技術

強制進入は、単に壊すだけではなく“安全・迅速・確実”が求められます。

① 観察(ドアの構造を見極める)

  • 開き戸か?引き戸か?
  • 蝶番(ちょうつがい)はどこか?
  • 鍵は何箇所か?
  • ガラスの有無は?

② 破壊(最小限の破壊で開放)

  • てこの力で押す・引く
  • 打撃で弱点を破る
  • 鍵周辺を狙う
  • 必要に応じて窓を破砕する

③ 進入(煙の逆流・フラッシュオーバーを確認)

  • 扉を少しだけ開けて内部状況を確認
  • 煙の勢い、色、温度をチェック
  • 危険なら即閉めて冷却
  • 安全を確保してから突入

➡ これを訓練で何度も繰り返し、感覚を体に覚えさせます。


■ ④ 強制進入は“住民の財産を守る技術”でもある

強制進入は破壊を伴うことが多いですが、
消防は「最小限の破壊で最大の救助」を重視します。

目的は以下の通り

  • 住民の命を守る
  • 室内の延焼を最小限に抑える
  • 不必要な破壊を避ける
  • 修理費用の負担を減らす

そのため、ハルガンツールは“壊すための道具”というより、
正確に開けるための繊細な工具とされています。


■ ⑤ 日本でも重要性が高まっている理由

近年は以下の理由で強制進入の需要が増えています。

  • 高齢化により“住宅内で倒れる”事案が増加
  • オートロックマンションが増えた
  • 住宅防犯の強化で鍵が複雑化
  • 火災での閉じ込め事故が増えている
  • 台風・豪雨での浸水救助でドアが開かない

世界ではすでに専門訓練が発達しており、
日本の消防も急速に技術を取り入れています。


■ まとめ

強制進入技術とは、
「通常の開け方ができない場所へ安全・迅速に進入し、人命を救うための専門技術」です。

  • 扉の構造を読む力
  • 適切な工具選択
  • 安全確認
  • 最小限の破壊
  • 迅速な進入

これらが求められる、消防の中でも高度で重要なスキルです。

火災・救助・医療対応の全てに関わる、
まさに“命をつなぐ入口を開く”技術だと言えます。

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