【元消防職員・防災士が解説】フロアアプローチとは?火災現場で使われる“安全に近づくための基本戦術”

火災現場では、むやみに火元へ近づくことは極めて危険です。
そこで消防隊が用いるのが フロアアプローチ(Floor Approach) と呼ばれる安全接近方法です。

一般にはあまり知られていませんが、
「火災現場の危険を最小限にして前進する」ための重要な基本技術です。


■ ① フロアアプローチとは?

フロアアプローチとは、

床面(フロア)を中心に、低い姿勢で進入しながら火元へ接近する戦術。

火災時、天井付近は高温のガスや煙が充満しています。
床面は比較的温度が低く、視界も確保しやすいため、
消防隊は“床を取るように”進むのが基本です。


■ ② なぜフロアアプローチが必要なのか?

理由は非常にシンプルです。

● 上は熱い、下はまだ安全

天井付近:500〜800℃
床付近:100〜200℃
(※状況により変動)

この“温度差”を利用して安全を確保します。

● 天井付近には危険が集中している

  • 可燃性ガス
  • フラッシュオーバーの兆候
  • 逆流する煙
  • 有毒ガス

天井に近づく=死に近づく行為。


■ ③ フロアアプローチの基本動作

消防士は以下を徹底します。

● 低姿勢(匍匐前進または膝歩き)

煙を避け、視界を確保するため。

● 壁沿いに進む(ウォールアプローチ)

方向感覚を失わないため。

● ホースラインを命綱として確保

「来た道=戻れる道」として必須。

● 霧状放水で熱気を押し上げる

進行方向の天井を瞬時に冷却。

この一連の動きが「フロアアプローチ」。


■ ④ フロアアプローチ中に危険を判断するポイント

進入中、消防士が瞬時にチェックするのは以下の点。

  • 天井の熱(手の甲で確認)
  • 煙の流れ方
  • ロールオーバーの兆候
  • 床面の温度(床火災の恐れ)
  • 進路の障害物

わずか1秒の判断の遅れが命取りになるため、
常に情報収集を続けながら進みます。


■ ⑤ 一般人が知っておくべきポイント

フロアアプローチの知識は、一般家庭でも役立ちます。

● 火災で避難する時は“必ず低い姿勢”

煙の中を立って歩くと、
数呼吸で意識を失うレベルの有毒ガスを吸い込みます。

● 天井の煙が濃い=危険が迫っている

暗く、重い煙は“燃焼ガス”そのもの。

● 部屋が熱いと感じたら絶対に開けない

フラッシュオーバー・バックドラフトのリスク大。


■ ⑥ フロアアプローチと住宅火災の関係

住宅火災では、
煙とガスの蓄積が進むと“一気に大爆発的に悪化”します。

そのため一般の方は、

  • 火元を見に行かない
  • ドアを開けて確認しない
  • 迷ったらすぐ避難

これが最も安全な行動です。


■ ⑦ まとめ

フロアアプローチとは、消防士が火災現場で生存率を高めるための基本戦術。

  • 天井は超高温、床は比較的安全
  • 低姿勢で進み、ホースを命綱にする
  • 危険兆候を見逃さない
  • 天井のガス層を冷却しながら進む

一般の人は、火災時に「低い姿勢で逃げる」「ドアを開けない」
この2つを覚えておくだけで、命を守れる確率が大きく上がります。

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