林野火災は、住宅火災以上に危険が多く、
一度条件がそろうと 「逃げ切れない火災」 に発展します。
実際、世界でも日本でも、林野火災では毎年のように
消防隊員の殉職・重傷事故が発生しています。
この記事では、元消防職員・防災士の視点から、
林野火災における 安全管理の基本と現場の行動指針 をまとめます。
■ ① 林野火災が危険な理由
● 火の進行速度が速い(風向・風速で一気に拡大)
● 地形の影響が大きい(谷・尾根・斜面で予測困難)
● 煙・熱・輻射熱で退路が奪われやすい
● 落石・倒木・地盤崩落の危険
● 気象条件が急変
● 長時間活動・疲労による判断力低下
林野火災は“想像以上に早く広がる”災害です。
■ ② 林野火災の安全管理の基本理念
林野火災の安全管理は、次の3つが柱となります。
◎ ① 火の進行ルートを読む(地形風理論)
◎ ② 二重三重の退避ルートを確保する
◎ ③ 単独行動を絶対にさせない
■ ③ 火災発生前(出場前)の安全管理
● ① 事前情報の共有
・風向
・風速
・湿度
・地形図
・GPS地図
・延焼方向予測
を全隊員に共有。
● ② 装備点検
林野火災では次が必須:
◎ ヘルメット
◎ 耐熱手袋
◎ 安全靴/編み上げブーツ
◎ 携帯無線
◎ ホイッスル
◎ マスク/フィルター
◎ 油圧工具・火たたき
◎ チェーンソー
◎ 飲料水(1L以上)
● ③ 指揮系統の統一(ICS)
林野火災は現場が広大で混乱しやすいため、
指揮命令系統の一本化(ICS体制) が必須。
■ ④ 現場到着後の安全管理(初動)
● ① 風向・地形の再確認
特に注意する地形:
◎ 尾根(風に乗って火が上がる)
◎ 斜面(上方向に火が走る)
◎ 谷(煙が滞留・熱がこもる)
● ② 活動可能区域と立入禁止区域の設定
指揮者が現場環境を確認して判断。
● ③ 退避ルート(エスケープルート:ER)の確保
火に追い込まれないよう 複数ルート を確保する。
● ④ 安全地帯(セーフティゾーン:SZ)の設定
火が来ても安全が確保できる場所を必ず設定する。
例:広場、道路、焼け跡、河川敷など。
● ⑤ 班(チーム)編成
単独行動は絶対禁止。
無線で定期的に生存確認。
■ ⑤ 林野火災で最も重要な“5つの禁止行動”
① 火の上方向(斜面上部)に回り込まない
火は上へ走るため、瞬時に炎に包まれる危険。
② 風下の狭い谷に入らない
煙・熱が滞留し、逃げ場を失う。
③ 無線の届かない区域に入らない
隊の統制が崩れ、孤立する危険。
④ 疲労した状態で斜面を登らない
判断力低下 → 足を取られて転落のリスクが高まる。
⑤ チェーンソー作業中に隊員を近づけない
飛び石・キックバックのリスクが大きい。
■ ⑥ 活動中の安全管理(継続行動)
● ① 気象変化の監視
・風向の変化
・突風
・湿度低下
は火勢が一気に強くなる。
● ② こまめな水分補給
熱中症は林野火災で最も頻発する事故。
● ③ 15分〜30分ごとの状況報告
無線で必ずIC(指揮者)へ報告。
● ④ 危険木の確認
倒木は林野火災の重大事故原因。
● ⑤ 火の“走り”を読んで位置取り
火勢が強くなり始めたら
無理に攻めず 安全地帯へ退避。
■ ⑦ 緊急時の対応マニュアル
林野火災は状況急変が多いため
緊急時の行動が明確であることが命を救う。
【1】 火勢が強まり退避判断
◎ ICが「退避」を指示
◎ 全隊員は工具を置き速やかにエスケープルートへ
◎ 無線は退避優先で使用
【2】 隊員が負傷
◎ 単独で搬送しない
◎ 班で応急手当 → 安全地帯へ移動
◎ 必要なら119番
【3】 隊員が迷失・無線不通
◎ 無線チェック
◎ 班長・ICへ報告
◎ 無理に捜索に入らない(さらなる被害)
◎ 追加部隊を安全なルートから投入
【4】 火に囲まれそうになった場合
◎ 低姿勢で煙を避ける
◎ セーフティゾーンへ急行
◎ PPE(個人保護具)を最大限活用
◎ 道具を捨てて走る判断も必要
■ ⑧ 訓練後(鎮火後)の安全管理
● ① ヒヤリハットの共有
事故原因を洗い出し、次の訓練へ反映。
● ② 装備点検
火・熱で劣化した装備は次の大事故につながる。
● ③ 隊員の健康(熱中症・煙吸入)確認
軽症と思っても後から症状が出ることがある。
■ ⑨ 林野火災の安全管理に必要な“組織の文化”
✔ 無理な突入は絶対にさせない
✔ 情報を小まめに共有
✔ 疲労した隊員を休ませる
✔ 「攻めより安全」を優先
✔ 班の連携・無線の統一
■ ⑩ まとめ|林野火災は“最も危険な火災”。安全管理が生死を分ける
✔ 火の進行は速く予測が難しい
✔ 退避ルートの確保は絶対
✔ 地形・風向・湿度が安全判断の鍵
✔ 単独行動は厳禁
✔ 緊急時は“退避優先”が鉄則
林野火災は、一瞬で延焼し、退路を奪う危険な火災です。
そのため 「攻める訓練」より「守る安全」 が何よりも重要になります。
正しい安全管理体制を徹底できれば、
隊員の命を守りながら効果的な消火活動が可能になります。

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