地震は予告なく突然襲ってきます。揺れが始まってからの数十秒、そして揺れが収まってからの数分〜数時間。この“初動の行動差”が生死を左右します。私は元消防職員として、東日本大震災・熊本地震・九州北部豪雨・能登半島地震などの現場で、多くの避難行動を見てきました。その経験から、一般の方が「何を優先し、どう動くべきか」を徹底的に実務目線で解説します。
この記事では、地震の瞬間から数時間以内に必ずやるべき初動行動を10項目にまとめ、「家庭」「外出先」「職場」「マンション」「子どもがいる家庭」など、あらゆる状況に対応できるように整理しています。今日からすぐに実行できる行動ばかりなので、家族全員で共有しておいてください。
■ 地震が起きた瞬間に最優先すべきこと
地震発生直後にすべき行動は、状況によって異なります。しかし、共通して最優先になるのが「落下物から身を守ること」です。建物倒壊は強い揺れのときに起こりますが、実際に多くのケガの原因は“家具・ガラス・照明・テレビ”などの落下物です。
自宅、職場、外出先、それぞれで最も安全な姿勢を取れるよう、以下を瞬時に実行できるようにしておきましょう。
・自宅や職場では机の下に入り、頭部を保護する
・窓・棚・吊り下げ照明から離れる
・ガスコンロの火は「揺れが落ち着いてから」消す
・揺れの最中は絶対に走らない
・マンション上層階では“長周期地震動”で大きく揺れるため姿勢を低く保つ
特に注意すべきなのは、「火の元を急いで消そうとする行動」です。現代のガス器具は揺れを検知すると自動で止まります。まずは自分の身を守ることが先で、火の元は揺れが収まってから確実に確認しましょう。
■ 揺れが収まった直後の「命をつなぐ行動」
揺れが止まった瞬間こそ、もっとも重要な判断タイムです。ここでの優先行動は次の5つです。
① 出口を確保する(ドア・窓を開ける)
地震で建物が歪むと「ドアが開かなくなる」ケースが非常に多いです。阪神淡路大震災でも多く報告されています。特にマンションやアパートでは必ず開けておくべき行動です。
② 火の元の安全確認
ガスコンロ・ストーブが倒れていないか、火がついていないか確認します。匂いがする場合は絶対にスイッチ類に触れず、窓を開けて119番通報。
③ 家族の安否確認
家にいる子どもや高齢者が動揺しやすいのは当然です。「固定電話が通じなくなる」「携帯がつながりにくい」のは災害時の典型。家族とは事前に“安否確認の方法”を決めてください。
④ ライフラインの点検
ガスの遮断、ブレーカーを落とす、給水管の破損確認などを行います。停電している場合は電気復旧時に火災が多発します(通電火災)。阪神淡路大震災で多くの火災が起きた原因です。
⑤ 靴を履く(スリッパ不可)
倒れた家具・割れたガラスで足を切る事故が非常に多いです。必ず靴を履いて移動してください。
■ 屋外や運転中に地震が発生した場合の行動
外出中に地震が起きた場合の鉄則は「落下物・倒壊物から距離を取ること」です。実際の現場では、ビルのガラス、高速道路の看板、ブロック塀などが落下しています。
・建物の外壁、ガラス張りのビルから離れる
・自動販売機、ブロック塀、老朽建物に近づかない
・河川沿いや海沿いでは揺れが大きいと“津波の危険”を最優先
・陸橋の下や高架道路の下には絶対に近づかない
車の運転中の場合は、急ブレーキではなく徐々に減速し、道路左側に停車。キーをつけたまま離れるのが原則です。エレベーターに乗っている場合は、すべての階のボタンを押し、最初に止まった階で降りることが命を守る方法です。
■ 津波の可能性がある地域の初動行動
太平洋側沿岸部や川沿いに住む家庭で最も重要なのが「津波を想定した初動」です。
・海沿いで強い揺れ、もしくは長い揺れを感じたらすぐに高台へ
・揺れの大小より“揺れの長さ”が重要
・津波警報が出たら避難開始、解除まで戻らない
・車での避難は基本NG(渋滞で多くの人が被害に遭う)
津波は最初の波が小さいことがあります。沖が引いたり、磯の匂いが強くなるなど、自然現象の変化も重要なサインです。
■ 初動行動の中でも“絶対にやってはいけないこと”
命を守るために、次の行動だけは絶対に避けてください。
・揺れている最中に外へ飛び出す
・ブロック塀や自販機の近くに逃げる
・SNSで状況を調べるために立ち止まる
・エレベーターを使う
・車で避難しようとして渋滞にはまる
・「大したことない」と判断して避難を遅らせる
・家族を探しに危険区域へ戻る
特に「正常性バイアス」によって“まだ大丈夫”と思ってしまう心理が非常に危険です。
■ 子ども・高齢者・ペットと暮らす家庭が取るべき初動
家庭に高齢者や子ども、ペットがいる場合は、想像以上に初動が遅れやすくなります。
・子どもは泣き出し、走り回るため安全確保が難しい
・高齢者は「避難しない」傾向が強い
・ペットはパニックになりやすく脱走リスクが高い
したがって、通常の家庭より“準備段階”が命を守ります。
・家具固定
・避難先のルール把握(ペット可か)
・子どもには日頃から訓練として「地震の姿勢」を教えておく
・家族会議を月1回する(避難所・連絡方法を共有)
特に避難所では「ペットの受け入れ方針」は自治体によって全く違うため、事前確認が必須です。
■ 地震当日〜数時間以内に必要な“生活防衛行動”
初動のあとは、生活の安全確保です。避難しない場合でも以下を実行してください。
・水を確保(浴槽に水をためる)
・冷蔵庫の食材を優先して使う
・スマホの充電を確保
・早めにトイレ対策を始める(断水は突然来る)
・近隣の高齢者に声かけをする
・車のガソリン残量をチェックして満タンにする
電気・水道・ガスが止まると、生活は一気に苦しくなります。「在宅避難」ができる家庭は圧倒的に強いので、物資と情報を確保することが重要です。
■ 元消防職員として伝えたい「初動の本質」
現場で何度も見てきたのは、災害時に命を守る人は「普段から準備していた人」です。家具固定をしていた家庭、避難ルートを家族で共有していた家庭、日頃から“もし地震が来たら”を考えていた家庭は、驚くほど行動が早く確実です。
逆に、普段から対策していなかった家庭は、避難に大幅な遅れが出ます。災害は待ってくれません。地震の初動行動は「習慣化」と「事前準備」で決まると言っても過言ではありません。
地震は必ずまた起きます。地震国・日本で生きる以上、初動行動を家族全員が理解しておくことは“命の保険”です。今日の記事の内容を、家族や友人にもぜひ共有しておいてください。

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