【元消防職員・防災士が解説】水難救助訓練の“安全管理体制”とは?|死亡事故を防ぐために絶対守るべきポイント

水難救助訓練は、消防・警察・自治体・民間団体などが実施する重要な訓練ですが、

一歩間違えると 「訓練中の死亡事故」 につながる危険な訓練でもあります。

実際、過去には訓練中の溺水・心停止・器具絡まりなど、

複数の重大事故が発生しています。

この記事では、元消防職員・防災士の視点から

水難救助訓練における 安全管理体制の必須項目 を分かりやすく解説します。

■ ① 水難救助訓練で起こりやすい事故

● 流れの速い水域での流失

● 足場の悪さによる転倒

● ロープ絡まりによる拘束

● 低体温症

● 過呼吸・疲労

● 溺水・心停止

● ボート・機材との衝突

● 視界不良による接触事故

水は「軽い事故のつもりが重篤化しやすい」特徴があります。

■ ② 安全管理の基本理念は「二重三重の安全」

水難救助訓練では、

“通常の訓練以上の慎重さ” が必要です。

安全管理の基本は次の3つ。

◎ ① 訓練中に単独行動をさせない

◎ ② リスクの高い水域では訓練を行わない

◎ ③ 陸上・水上・水中の“三方向で監視体制”を作る

■ ③ 訓練前の安全管理体制(事前準備)

● ① 現地調査(下見)

流速、深さ、障害物、落差、濁り、草木の状態などを必ず確認。

天候・ダム放流情報もチェック。

● ② 訓練計画書の作成

・目的

・場所

・内容

・危険予測(KYT)

・緊急連絡体制

を明記する。

● ③ インストラクター(指導者)の選任

経験者を中心に配置し、

新人や水慣れしていない隊員を無理に水域へ入れない。

● ④ 訓練生の健康・体調チェック

風邪・疲労・睡眠不足・食欲不良は参加させない。

● ⑤ 装備の点検

・PFD(救命胴衣)

・ドライスーツ/ウエットスーツ

・ヘルメット

・ロープ

・ナイフ

・ホイッスル

を必ず点検。

● ⑥ 緊急搬送ルートの確認

救急車が到着できる場所、搬送ルート、最寄り医療機関を確認。

■ ④ 訓練中の安全管理(現場体制)

水難救助訓練の安全管理は「チーム体制」が命を守る。

● ① 監視員(セーフティーオフィサー)を必ず配置

陸上・水上・水中で複数名が監視。

役割分担は次のとおり。

● 陸上セーフティ

ロープ安全、危険水域の見張り、緊急連絡を担当。

● 水上セーフティ(ボート)

流されそうな隊員を即時救助。

状況全体を俯瞰できる。

● 水中セーフティ(エントリー地点周辺)

訓練生の動きを近距離で監視。

● ② 指揮者(IC)が全体を統括

訓練中のGO/STOPの判断を一元化。

● ③ 通話手段(無線・ハンドサイン)を統一

水域では声が届かないため

・ホイッスル

・ハンドシグナル

・無線

を事前に統一する。

● ④ 訓練時間は短く区切る

水は体力の消耗が激しい。

“短時間・高品質・低リスク”が基本。

● ⑤ ロープ操作の安全

・複数人で保持

・絡まり防止

・ナイフを必ず携行

・隊員がロープに飲まれない対策

■ ⑤ 緊急時の対応マニュアル

訓練中の事故は“秒単位”で重篤化する。

以下は必ず訓練計画に盛り込む。

【1】 溺水・流失

◎ 直ちに「訓練中止」

◎ ボートが最短距離で接触

◎ 陸上は追走しながら救助

◎ PFDの確認

◎ 引き揚げ後:呼吸・意識確認 → 心停止なら直ちにCPR

【2】 意識障害

◎ 水域から即時離脱

◎ AED・酸素を準備

◎ 冷却の必要がある場合は速やかに実施

【3】 低体温症

◎ 水から上げる

◎ 体を拭いて保温

◎ 温かい飲み物(意識が明確な場合のみ)

【4】 ロープ絡まり

◎ ナイフで切断

◎ 無理に引っ張らず冷静に対応

【5】 怪我(骨折・捻挫)

◎ 水域から離脱

◎ 直ちに安静

◎ 必要なら119番

■ ⑥ 訓練後の安全管理(アフターアクション)

● ① 事故・ヒヤリハットの共有

翌日以降の訓練で再発防止を徹底。

● ② 装備の洗浄・整備

泥や石で劣化した装備は大事故の原因。

● ③ 訓練生の体調確認

疲労蓄積による翌日の事故を防止。

■ ⑦ 水難救助訓練に必要な“組織の安全文化”

✔ 無理をさせない

✔ 声をかけ合う

✔ 疲れたら休む

✔ 危険な水域ではやらない

✔ 「STOP」を言いやすい空気づくり

■ ⑧ まとめ|水難救助訓練は“命を守る訓練だからこそ、最も安全でなければならない”

✔ 訓練前の現地調査・計画・体調管理が命を守る

✔ 陸上・水上・水中の三重監視体制が必須

✔ 単独行動は禁止

✔ 緊急時は迷わず訓練中止 → 迅速救助

✔ 訓練後のヒヤリハット共有で「事故ゼロ」を継続

水難救助訓練は高度な技術を磨くためのものですが、

安全管理ができていない訓練は事故を生むだけ です。

正しい体制のもとで訓練を行えば、

隊員は確実にスキルを伸ばし、安心して活動できます。

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